経済金融

【ドル円・日本株】日銀の利上げが及ぼす家計への影響と日本株

青髭

日銀は今月の金融政策決定会合で利上げを決定した。
FRBとECBも利上げを実施し、主要中央銀行が相次ぎ同時に実施したことになる。

今回の利上げで日本の政策金利は1.25%まで上昇した。
日本では長年に渡り超低金利環境が続いてきたが、2024年3月のマイナス金利解除を転機として、金利のある世界への移行が進んでいる。

今後は金利のある世界が続くわけだが、筆者が考えるターミナルレート1.75〜2.00%での家計の耐久性はどの程度だろうか。

今回は想定ターミナルレート上限2.00%でストレスチェックを実施してみる。
その上で影響を考えてみる。

本記事では、住宅ローンの話が多くなるのだが、これは筆者が個人的に興味があるというより、どうしても日本の平均的な年収や保有資産額が数百万程度なのに対し、住宅ローンの場合債務が数千万円と桁が一つ大きくなるためである。家計への影響度を考慮する場合では避けて通れない。

結論として、政策金利が2%に上昇しても、家計全体の直接的な利息収支が直ちに大幅悪化するとは限らない。ただし、住宅ローンなどの借入が多い世帯には、負担増が集中する可能性がある。

日銀のターミナルレート(筆者の想定)

筆者は日銀のターミナルレートは1.75〜2.0%と考える。理由は以下の通りである。

・日銀が考える中立金利は1.1〜2.5%まで幅があるが、2%以上も想定されること。
・直近の日本のCPIが1.9%(8月)であること。
・FRBの追加利上げ観測が出てきており、仮にFRBが利上げした場合日銀も追従する可能性が高いこと。

あくまで筆者独自の想定である。
当然、日銀の想定以上に消費が落ち込んだり、景気にブレーキがかかればもっと低いターミナルレート想定になるが、逆もあり得る。

政策金利2%と住宅ローン2%は別物

政策金利が2%になったからといって、全ての住宅ローンが2%になるわけではない。

住宅ローンの適用金利は、銀行の基準金利や優遇幅、契約条件によって変化する。
本記事では政策金利2%時の変動金利を概ね2%と置いて計算することにする。

また、比較の出発点も重要である。
住宅ローンが1.25%から2%へ増加する場合と、超低金利期の0.5%から2%への増加では、負担増の度合いが大きく異なる。

毎月の住宅ローン返済額の増加度合い

元利均等返済・ボーナス返済なしとして、残債と残存期間を揃えて計算すると、以下のようになる。

残債/残存期間金利1.25%→2%の月返済増金利0.5%→2%の月返済増
4,000万円/35年約14,900円約28,700円
3,000万円/35年約11,200円約21,500円
2,000万円/25年約7,100円約13,800円
1,500万円/20年約5,200円約10,200円
1,000万円/15年約3,400円約6,700円

※金利変更後の返済額を、同じ残債・残存期間で再計算した比較。実際の借入時からの経過を再現したものではない。

購入直後など、残債の多い家庭では、低金利期からの累計で月2万~3万円の負担増も考えられる。一方、返済が進んだ家庭では、増加額は数千円にとどまるケースもあり得るだろう。

つまり、年齢そのものよりも、残債・金利・残りの返済期間が重要である。

なお、5年ルールや125%ルールのある商品では、返済額の増加が遅れたり抑えられる。ただし、その間も利息負担は増え、元本が減りにくくなる。尚、すべての商品にこのルールがあるわけでは無い。(みずほリサーチ&テクノロジーズ「日銀利上げ影響の試算アップデート」)

ちなみに2025年度のフラット35利用調査では、新築住宅の平均借入額は約3,200万〜4,400万円である。
※全期間固定金利のフラット35利用者の平均であり、住宅ローン利用者全体の平均ではない点に注意。

住宅の種類平均借入額
注文住宅〈土地取得費を含まない区分〉3,248万円
土地付き注文住宅4,379万円
建売住宅3,776万円
新築マンション3,951万円
中古戸建て2,434万円
中古マンション2,549万円

とはいえ、今回の一連の利上げでローンの支払いが数千円〜1万円程度は増加した世帯が多いのではないか。

年代別に見ると、資産と借入には差がある

J-FLECの2025年調査から、二人以上世帯の金融資産と借入を整理した。年代は世帯主の年齢である。(J-FLEC

年代金融資産中央値何らかの借入がある世帯借入世帯の債務中央値
20代125万円28.7%100万円
30代311万円27.8%2,000万円
40代500万円24.8%1,550万円
50代700万円22.3%1,000万円
60代1,400万円14.3%500万円
70代1,178万円6.7%275万円

金融資産中央値は非保有世帯を含み、債務中央値は借入のある世帯だけの数字である。住宅・土地は金融資産に含まれない。このため、左右の中央値を差し引いて「典型的な家計の純資産」とすることはできないことに注意が必要である。

この調査では、借入のある30~40代の債務が大きい一方、60~70代は借入のない世帯が多く、金融資産中央値も高くなっていることが分かる。

ただし、ここでいう借入には、自動車ローンなども含まれる。住宅ローン保有率そのものではない。

家計全体では、預金利息が増える恩恵もある

日銀の2026年6月末の統計では、家計部門の円の流動性・定期性預金は約1,024兆円、民間・公的金融機関からの借入は約385兆円である。家計全体では、預金が借入を大きく上回っている。(日銀資金循環統計)⁠

この残高を固定し、次の条件を置いてみる。

  • 借入の70%に、0.75%ポイントの金利上昇が反映される。
  • 預金金利は平均0.375%ポイント上昇する。
  • 預金利息は原則20.315%の税金を差し引く。

すると、月額換算では受取利息が約2,550億円増え、支払利息が約1,680億円増加し、差し引き約870億円の改善となる。ただし、これは筆者独自の推定である。

ここから言えるのは、利上げによって日本の家計全体の利息収支が必ず悪化するわけではないということである。

年代別の月額イメージ

同じ金利条件をJ-FLECの年代別平均残高に当てはめると、次のようになる。

年代受取利息増と支払利息増の差額/月
20代約690円の負担増
30代約1,540円の負担増
40代約380円の負担増
50代約360円の収支改善
60代約2,020円の収支改善
70代約2,060円の収支改善

これは無借金世帯も含む二人以上世帯の平均試算であり、住宅ローン世帯の返済増ではない。また、調査の預貯金は日常の決済資金を網羅せず、年代別の固定・変動金利の違いも反映できていない。

全国統計とは対象・定義が異なるため、年代別の表を全国額に直接対応させることはできていない。あくまで、負担と恩恵の分布を見る参考値である。

上記は、あくまで平均的な債務と資産のバランスから試算している。つまり、今回の仮定では、家計全体の直接的な利息収支は必ずしも悪化しない。負担は借入の多い世帯に偏る。また、設備投資や雇用・賃金を通じた間接的な影響はこの試算には含まれていない。

実際、内閣府の2022年版モデルでも、利上げは設備投資を抑えるものの、消費は受取利息増などによって当初わずかに増える結果であった。

しかしながら、債務を持つ世帯ではマイナスの影響が大きいことははっきりしている。特に住宅ローンを持つ世帯への影響は大きい。日本は米国等と異なり多くが変動金利である特徴もある。

また、日本の家計債務は国際的に見て低いわけではない。OECDの2024年データで、家計債務を年間純可処分所得で比べると以下の水準となる。

家計債務/年間純可処分所得
オーストラリア約210%
日本約122%
フランス約115%
米国約99%
ドイツ約86%

日本の場合、家計債務の多くが住宅ローンだと考えられるがその多くが変動金利なのが問題である。

豪州中央銀行も借入世帯の消費は所得変化に敏感であると分析している。

筆者の考え

これまでの分析から、日銀の利上げは日本で変動金利型の住宅ローンが広く利用されているから、債務を持つ層に大きな負担増を及ぼすことが分かる。

また、金利は債務にも預金にも発生するので、単純に債務を持つ層から預金を持つ層への所得移転が発生するとも言える。資産が減少しやすいのは子育て世代やこれから家庭を持つ世代となるので、少子化が課題の日本では拙速な利上げは避けるべきであろう。

日本では長年にわたり超低金利環境が続いていたが、その背景にはデフレや低成長があった。実質賃金は長らくマイナスで今年になりようやくプラスが定着しつつある状況である。日銀による利上げは、それなりの根拠がありおかしいとまでは思えないが、今後の利上げ判断は慎重さが求められるべきである。

また、利上げに対する警戒度が高いセクターは、

  • 不動産・REIT
  • 住宅・ハウスメーカー
  • 高PER・グロース
  • 小売り・外食などの内需消費
  • 建設

等だろう。逆に銀行は内需系であっても当面業績は順調であることが予想できる。
上記のセクターであっても、財務や利益構造、成長ストーリーによっては逆張りで投資できる銘柄も存在するだろう。

変化が存在する時期はチャンスも併存すると考えるのである。今後も日本株を中心にチャンスを探していきたい。

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青髭
会社員、個人投資家
会社員として本業を続けながら、日本個別株に投資。割安性、業績サイクル、構造改革、株主還元に加え、為替・金利・資源市況から企業の変化点を分析しています。
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