【ドル円・日本株】日米協調介入、日銀利上げペースアップは不可避か
7月31日に異例の日米協調介入が実施された。日米協調介入が実施されたのは2011年の東日本大震災発生時まで遡る。その前は1998年のアジア通貨危機の時である。
今回は特段イベントが無い状況での介入であり、協調介入の中でも異例であり、1995年の極端な円高是正の為の介入にやや構図が似ているかもしれない。
日本の単独介入では効果に限界があると言え、米国も参加した形になっているが、果たして円安転換や阻止につながるのだろうか。
今回は日米協調介入の背景と今後の動きを考えていきたい。
【日米協調介入の背景と結果】
米国が参加したのは、米国側から見て日本の単独介入が繰り返された場合、日本が保有する大量の米国債売却に繋がり、結果的に米国債利回りが上昇することを嫌がった為だろう。
ドル円は一気に163円台から157円台まで下落した。
また、ベッセント財務長官から協調介入とセットで以下が確認できた。
- ・日本が保有する米国債を担保にしたドル調達を今後可能にする(FRBの制度を活用)。その為、今後日本当局が介入する場合は米国債を売却する必要がなくなる。
・ベッセント長官は「介入によって市場にシグナルを送ることはできても、相場の流れを変えることができるのは政策」とし、植田総裁の名前を挙げた上で「必要なことを実行すると信じている」と発言した。日銀の利上げスピードが加速する可能性が高い。
今後、ドル円が160円を超えてくると追加介入の警戒感が高まってくるだろう。
また、今回の協調介入にしても、FRBの制度を通じたドル調達にしても、日本側は米国に大きい借りを作っている。日銀による追加利上げ観測は高まっている。勿論、これらは米国と利害が一致している為でもあるのだが、、。
【日銀の利上げスピードについて】
日銀は直近では6月に利上げを実施している。ペース的には年内にもう1回程度、具体的には12月頃に追加利上げが市場から予想されていた。
今回の一件で、9月の利上げ観測が高まっている。
また、8月10日公表の日銀「主な意見」では利上げについて「金融緩和度合いの調整をペースアップする必要がある」と明言している。今後、市況に大きな変化が無い限り、利上げ速度がペースアップされる可能性が高まっている。
現状の日本経済やCPI、高市政権の姿勢を考慮すると、さすがに連続利上げは考えにくい。ただし、例えば2会合ごとの利上げ(概ね四半期ごと、年3回程度)は十分考えられるだろう。
利上げ幅は少なくとも1.5〜2.0%までは利上げされる可能性が高いのでは無いか。日銀が考える基調的な物価上昇率が2%なので、2%までの利上げは意識されやすい状況である。
【ペースアップした利上げによって円高に転換されるのかは微妙な情勢】
日銀による利上げによって、果たして円高基調に転換するのだろうか。
そもそも日銀は利上げ傾向であり、現在の情勢ではかなり微妙である。国際情勢や米国側の事情が大きく左右する為である。
いくつか円高になる要因や条件を考えてみる。
まず、主要国や近隣国の政策金利を確認しておきたい。
・米国:3.5%
・EU:2.25%
・英国:3.75%
・カナダ:2.25%
・韓国:2.75%
・台湾:2.00%
・日本:1.00%
・スイス:0.00%
仮に日本が2.0%まで利上げしたとして、ようやく諸外国並みである。しかしながら、日本より利上げしている韓国ウォンも台湾ドルもここ数年通貨安傾向である(ちなみに、ベッセント長官はアジア通貨安の原因に円安を挙げている・・)。アジア諸国全体が通貨安傾向である。一方で、ユーロやカナダドル、豪ドルは安定している。スイスフランはゼロ金利だが、対ドルで上昇が続いている。
これらの状況から素人なりに考えてみたい。
まず、日本側の状況である。
日本のCPIは今年の1月から前年比で2%を下回っている状況が続いており、実質賃金もここ最近ようやくプラスが定着してきたところである。利上げによる住宅ローン上昇等の国内経済への悪影響も考慮が必要である。利上げペースを上げると言っても2%以上の大幅な利上げは困難だろう。
また、高市政権による責任ある積極財政による投資政策が継続しており、最近では時限的な消費減税が閣議決定された。そもそもこれらは選挙公約である。日本は長らくデフレに苦しんでいた上、選挙公約である以上は当面積極財政の旗は下ろすことは難しい。下ろすにしても、相当程度の政治的な理由が必要だろう。
スイスフランがゼロ金利なのに対ドルで上昇傾向にあることを考慮すると、財政政策は一定程度為替に影響を及ぼしているようである。従って、日本の財政政策が変化したら為替にも影響を及ぼすだろうが、当面の間選挙が無い状況で大幅な政策転換は考えにくいだろう。
次に国際情勢だが、特に中東情勢の影響は考えられる。
日本が原油輸入の9割以上を中東に頼っていたように、アジア諸国に産油国は無く、多くが中東に資源を依存していた。資源価格上昇は日本やアジア諸国の物価と財政を圧迫する。しかしながら、イラン情勢は沈静化の目処が立たない状況である。
また、国際的なAI・半導体やデーターセンターへの投資とそれに伴う企業収益向上と株高も重要なファクターである。企業によっては債務によって投資を拡大しており、これも物価上昇圧力に繋がる。昨今の株高によって相対的に債券は不人気傾向と考えられ、それによって債券安、金利上昇が起きている可能性も考えられる。
AI関連への投資や研究開発、AIの活用はしばらく続きそうである。
最後に米国側の状況である。
米国のCPIは直近で前年比3.5%であり、イラン戦争が始まってからCPIは上昇傾向(高止まり)である。経済は堅調であり、AIや半導体関連への巨額投資が続いており、戦争による出費が嵩み財政は拡大傾向である。そして、複数のFRB理事が利上げに言及している。純粋にドル高が意識されやすい状況では円安解消は困難である。
昨年中頃から日米金利差とドル円の相関関係が崩れており、日米金利差は縮小しているのにドル円は上昇傾向である。そもそも日本は利上げを続けている。単純に日本が利上げを継続して済む話では無いだろう。
日本の経済財政政策、米国の経済や物価状況、イラン情勢、AI等の投資、株高等の要因に変化があると為替環境も変わってくると考えられる。
【まとめ】
為替は株価に影響を与えるので重要である。今回の協調介入と日米の金融連携が果たして円安傾向を終了させるのか、今後慎重に見極める必要があるだろう。日米の特に物価動向やイラン情勢が重要になってくるだろう。
※追記
今回の日米円買い介入について、米通貨当局はECBに事前通告を実施しなかったと言う。つまり、今回の米国によるユーロ売りは事前通告無しに実施され、それは西側の慣例を破ることになる。トランプ大統領やベッセント財務長官の親日的発言は話半分に聞く必要があるだろうが、少なくとも今回の一件で、トランプ政権の欧州嫌い(欧州軽視)と欧米の相互不信は深刻さが浮き彫りになっている。
※追記2
マスメディアの中には円安の原因を高市政権の政策の帰結と結論付けるところもあるが、これは流石に偏りがあると言えるだろう。何故なら現在の円安は2021年から始まっており、政策に責任を追及するならば、岸田政権、石破政権及びその前の安倍政権にも相当程度の責任が生じるのである。高市政権は重点17分野の投資等の産業振興や実質賃金向上策や税制調整等の中間層への支援に重きを置いている。円安の要因は上述のように複合的である為、一方的に結論付ける論調には注意を要する。
