【ドル円・日本株】円高か円安か、ドル円の方向性について考える
ドル円は7月9日に161円まで上昇した後に、9月15日に140円まで急降下した。その後円安が再び進行し、現在154円台となっている。
今後、このまま円安が進むのか、円高が進むのか、株価と為替の関係を考えると大変重要である。今回は年末にかけてのドル円の方向性について考えていきたい。
【米国インフレ再燃リスクとドル高について】
米国経済は順調に推移しており、ソフトランディング期待を超えて、インフレ再燃リスクが浮上している。以下、直近の米国物価統計と経済指標を確認しておこう。
- 10月CPI:前年比2.6%(市場予想に一致)
- 10月PPI:前年比2.4%(前月は1.9%に上昇修正)
- 10月ISM非製造業景気指数:56(市場予想53.6)
- 10月米国雇用統計・失業率:4.1(前月4.1%。市場予想に一致)
- 10月小売売上高:前月比0.4%(市場予想0.3%)
- 10月小売売上高(自動車を除くコア):前月比0.1%(市場予想0.3%)
総じて力強い数字が出ている。一部弱含みもあるが、多くの指標が前回改定値が上方修正されていたり、前月より改善している。経済の順調さはドル高と株高に繋がっている。続いて、債券利回り、ドルインデックス、NYダウの推移を確認しておこう。
- 米国10年債利回り:4.44%(今年7月以来の高値)
- ドルインデックス:106.673(2022年以来の高値)
- NYダウ:43444(一貫して上昇傾向。過去最高値圏)
- NYダウPER:27.4(コロナ後の一時期を除いて高値圏)
コインの裏返しになるが、最近の円安の原因はドル高であることが分かる。
米国大統領選挙の結果来年1月にトランプ政権が発足することになるが、上下院でも共和党が多数派になり、いわゆるトリプルレッドになることが決まった。第一次トランプ政権時は株高、ドル高で市場が反応するトランプラリーが発生したが、今回は選挙前の時点でトランプ氏当選の可能性が高まるとトランプラリーの再現が始まっていた。
トリプルレッドになることでトランプ政権の政策が実現しやすくなることが想像でき、選挙前から始まっていた市場の織り込みは相当進んでいると思われる。その一つにインフレ再燃リスクがあるだろう。
上記の経済指標・物価統計から、経済、物価ともに底打ちしたとは言い難くインフレ再燃の土台は整っている。そこにトランプ政権の政策が加わることによって、インフレ再燃のリスクが高まる懸念が燻っている。
実際、インフレ再燃となればFRBは利下げを停止することが考えられ、米金利の高止まりは続くことだろう。だが、ドル円が同じく高値圏に推移するかどうかはよく考える必要がある。
【円安か円高か】
実際に円安になるかはインフレ再燃のよる米金利上昇以外にも様々な要素を考慮する必要がある。今考えられるのは以下の要素である。
- NYダウが下落する可能性:株価は過去最高圏でPERもコロナ後の大規模緩和があった一時期を除いて高値である。インフレ再燃による高金利により上値が抑えられ、場合によっては下落する可能性がある。
- トランプラリーの織り込み進行:選挙前から始まっていた織り込みが相当進んでいて、トリプルレッドや閣僚人事の大枠が決まることで、反転する可能性がある。また、このまま再現が進む場合、第一次トランプ政権下同様に高金利による株安によってドル安になることになる。
- トランプ政権の政策による影響:トリプルレッドにより政策実行力は高くなっているが、一方で米国では議会が非常に強い力を持つ。共和党も一枚岩ではなく、様々なスタンスの議員がいることに留意する必要がある。
また公約や選挙中のトランプ氏の発言についても、第一次政権に比べ減税幅は限られる上、その他の政策も支持者からの助言により軌道修正が図られることで、思いの外影響が限られる可能性はある。現に大統領選終盤から日本製鉄によるUSS買収について、トランプ氏から直接の言及は無くなっている。
政策による影響力が、当初の見込みと異なる場合、市場による織り込み過ぎとなることが考えられる。 - 物価が下落してFRBの利下げが継続:トランプ政権による規制緩和によってエネルギー価格が下落すれば、あり得るシナリオ。CPIが現在の水準で下げ渋っていても利下げが継続された場合、インフレ再燃懸念との綱引きになる。エネルギー価格についてはコロナ前との比較や中東の地政学リスク後退の可能性(言い換えれば高止まりしており、これ以上リスクが上がりにくい)から、まだ下げ幅があると考える。
- 日銀の動向:日銀の「主な意見」や最近の総裁の発言を総合すると、追加利上げの可能性は高まっていると言える。早ければ12月の追加利上げが考えられる。長らく続いたマイナス金利は終了しており、特にこの1年は政策転換が進んでいる。日本側の状況は大きく変化している。
- 投機の動向:為替相場の8〜9割は実需ではなく投機だと言われている。その意味でドル円が52周移動平均線を上回る状況が続くと円安要因になる。一方で年末にかけての利益確定は円高要因になる。
上記を総合すると、難しいところだが、どちらかと言うと円高方向に向かう可能性が高いのではないか(円高になると言うより、過度の円安になりにくい環境と言える)。今週発表された米国の経済指標・物価指標が総じて経済の好調さを表したものであるにも関わらず、ドル円とNYダウは週足では下落している。超短期の話なので、トレンドを表すものでは無いが何かの兆しと言えなくはない。
【まとめ】
今までの米株高を支えていたものが、FRBによる利下げ期待と企業の好業績であるならば今後は上値の重い展開が予想される。とは言え、米企業の業績は堅調なので、多少の調整があったとしても中長期的に懸念する材料は今のところほとんど無い状況である。
気掛かりなのは日本株である。このところの円安にも関わらず、日経平均株価の上値は重い。中国経済の低迷やインド経済の勢いも一服していること、米中対立等の地政学的なことを考えれば、これからも日本への投資は底堅く続くはずである。
一方で日本は実質賃金のプラスは定着せず、低成長が続いている。また、企業業績も堅調ではあるものの円安による上乗せが今まで以上期待しにくいので、期待値は以前に比較すると落ち着いている。海外投資家による中国等からの代替投資も一巡している可能性がある。短期的には日経平均株価は上値の重い展開が予想され、個別銘柄の選別が重要になってくるだろう。
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