経済金融

【ドル円・日本株】FRB大幅利下げとその影響

yuta8068@gmail.com

今月17日〜18日にかけて実施されたFOMCの結果、FRBは0.5%の大幅利下げを決定した。筆者としては、利下げは規定路線であるものの、0.5%の利下げ幅は予想外であった。とはいえ、事前の市場予想は0.5%大幅利下げにやや傾いていており、実際に利下げされた結果を踏まえると、米国経済を筆者が勝手に過大評価していたという事なのだろう。NYダウは2日連続で過去最高値を更新し、ドル円は上昇して終了した。
今回はFRBが大幅利下げに踏み切った理由、ドル円、日本株への影響を考えていきたい。

【FRB大幅利下げの理由を考える】

今回の大幅利下げが予想外であった理由として、大統領選挙の直前の時期であること、雇用環境は悪化しているがまだ完全雇用の水準(4〜5%)であること、家計に余力は無いもののリセッションには至っていないこと、が挙げられる。今までの利下げの歴史を振り返ると急激な景気悪化場面で大幅利下げが実施されており、政治日程を避けていることがほとんどなので、今回は時期も利下げ幅も異例と言える。異例の利下げを実施した理由として2つ考えられる。

①過去の歴史に学んだ可能性
パウエル議長はコロナ後のインフレを「一時的」と発言し、利上げが後手に回った過去がある。その後米国はインフレに苦しむことになるが、この時の経験がパウエル議長及びFRBメンバーに影響を与えた可能性はある。今までの利下げの歴史を振り返ると完璧なソフトランディングに成功したのは1度のみであり、ほとんどは利下げが後手に回ってきた。そうした歴史を踏まえた可能性もある。

②米国経済が想定以上に悪化している可能性
米国経済は一見すると堅調であるように見える。ただし、中身をよく見ると悪化していることは明らかだ。今回利下げでリセッションを回避できるかギリギリのタイミングだと考えている。詳細は以下の記事で参照されたい。

各種統計を見るとGDP等の経済活動は堅調に見えるが、米国経済を支える家計(個人消費)の余力は無くなり、ウォルマートが値下げによる集客により業績を拡大するなど消費の質も悪化している。大規模な倒産やリストラは発生していないが、求人数の下落は続いており、特に中小企業での雇用環境が悪化している。今のところ経済は堅調だが、利下げせず高金利を維持するといずれ景気後退及び雇用環境の大幅悪化に陥る状況であった。その為、①の理由も踏まえて、一見して経済が堅調に見える間に利下げを開始したのではないか。今回の様な予防的な大幅利下げは例が無く、ハードランディングの可能性はやや後退したと言えるだろう。一方で、やはり大幅利下げに踏み切った事実は重い。市場の想定以上に経済悪化が進んでいる可能性がある。経済指標を観察すると、既に手遅れで、利下げが後手に回っていた可能性も否定できない。今後の経済指標・雇用統計に注視していく必要がある。

FOMC後の会見でパウエル議長は雇用の伸び鈍化に言及するなど、FRBの役割の一つである「雇用の最大化」に注力する姿勢を示した。今後も継続した利下げが予想されるが、その度合いは失業者数や失業率、雇用者数等、雇用環境の指標に左右されることになる。

【ドル円への影響】

規定路線であった米国の利下げが開始され、19日〜20日に開催された日銀政策決定会合では予想通り追加利下げは無く通過し、植田総裁の会見でも特に日銀の姿勢を変更する言及はなされなかった。ドル円は各中央銀行のイベントを終えて上昇しているが、筆者としては上述の通り日米の経済状況や日米中央銀行の基本姿勢に変更が無いため、中長期的な円高トレンドに変わりはないと考える。(補足すると、日本の8月コアCPIは2.8%と堅調であった)

FOMC後の公表れたドットチャートでは最終的な中立金利が3%前後に落ち着くことを示唆しているが、日銀の追加利上げ予想を加味すると、元々あった名目金利差が半分程度まで減少することになる。市場の織り込みがあるとしても、やはり円高方向に進むと考えるのが自然だろう。仮に米国経済がソフトランディングしたとしても円高基調に変わりはなく、ここから以前の様な超円安が再燃する可能性は低いだろう。

ドル円については以下の記事も参照されたい。

【日本株への影響】

日本株についてはやや複雑である。以前の記事でも言及したが、9月上旬ごろまではドル円と日経平均には弱い相関関係があったが、その後やや相関関係が強まり20日時点では強い相関関係に変わっている。いずれにしても、ドル円に連動して日経平均が左右される状態が続きそうである。日経平均はNYダウ等の米国市場にも影響を受ける。米国株については、利下げ期待による下支えがあるものの、しばらくは現在の経済状況を反映して一貫性が無く、各種経済指標に振り回される日々は続きそうである。そう考えると、ややドル円から受ける影響の方が大きくなりそうだ。

ここから円高基調が進む可能性が高いことを踏まえると、為替との関係的には上値の重い展開が続く可能性が高い。ただし、トヨタ等の主にネガディブな影響を受ける円安メリット株は、歴史的に異常な水準の円安による恩恵が無くなるだけで、以前より円高になったからといって優良企業で無くなるわけではない。日本経済は米国のように経時的悪化しているわけでは無いので、円高以外の企業業績悪化は考えにくい。円高による業績悪化が今後織り込まれるだろうし、過度の心配は不要だろう。

米国や中国の経済減速を織り込み、日本経済が比較的沈まない(利上げできる状況)であるならば内需株に強みがあり、円高に賭けるなら円高メリット株、等様々な戦略が考えられる。また、円高が今後も進行し、円安メリット株が過小評価に至った場合は中長期的なリバウンドを期待することもできる。


※米国経済がハードランディングした場合は、日本市場も道連れになる可能性が高いので注意が必要だ。
※9月末に多くの企業が権利確定日を迎えること、米国経済やドル円の方向性を見極める必要性を考えると、短期的には積極的に買い向かえる状況とは言いにくい。

日本株については以前の記事も参照されたい。

【まとめ】

今回のFRBによる大幅利下げは異例のタイミングかつ予防的に実施された。その為、今後のシナリオもかなり読みにくくなったと言えるだろう。米国はGDPが全世界の25%を占める最大の経済大国だが、逆に言うと4分の1を占めるに過ぎず、大企業のグローバル化が進んでおり国内経済の大企業(米国最大の雇用主)に与える影響度も様々であるため、その点でも複雑化している。

今のところ、考えられるシナリオは以下の通りだろう。

  • ハードランディング:今後失業率が急上昇するならこのシナリオになる。歴史的には失業率は悪化時に急上昇してきた。今回の大幅利下げで可能性はやや後退したと考えられるが、逆説的には大幅利下げによって根拠が補強されたとも言える。悩ましいところである。
  • マイルドリセッション:景気悪化が進むものの、リーマンショック時や過去のハードランディングよりはマイルドに着地するシナリオ。景気後退したとしても、短期間で終了する。
  • ソフトランディング:歴史的には可能性が低い。

筆者はハードランディングあるいはマイルドリセッションを予想する。

異例の利下げが実施されたため、今後の展開も異例に進む可能性がある。特に雇用関係の統計には要注意だ。

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青髭
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会社員、個人投資家
日本個別株に投資を続ける個人投資家です。本業が会社員のため限られた時間でしっかり成績を残し、本業に支障がきたさない事を念頭に投資を続けています。 経済、金融、投資に関する適切な情報発信を心掛けていきます。
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