日銀利上げによる日本経済と株価への影響
7月31日に日銀が利上げを決定した。市場は7月の利上げを予想しておらず直前に報道がなされたものの不意打ちと言って良いだろう。株式市場の調整が続いている。
筆者も日本経済の現状を考えて7月は利上げを見送り、米国の経済状況及びFRBの動向を左右されながらも今年秋ごろの利上げを予想していた。従前の予想は以下記事の通りである。
今回は利上げによる影響、特に今後の株式市場の行方を考えていきたい。
【利上げによる影響】
利上げされると経済活動にブレーキがかかる。家計、企業は借入して経済活動を行う時、利払いが増えることになるので借入金額が小さくなる。その分経済活動が縮小することになるのだ。
家計は車や家を購入するときにローンを組むことが多いが、購入金額を減らしたり購入を控えることが増える。企業も銀行に借入して工場を建設したり、企業の買収をしたり、投資をしたり新たな行動を実施しにくくなる。
家計も企業も既に大きな借金を抱えている場合はその利払いが増えることになる。家計で考えると多くの家計が住宅ローンを変動金利で借金しているため、少なくない影響を受けるだろう。
経済活動が縮小する結果、物価と企業の業績が低下することが予想され、企業の業績が低下すれば労働者の賃金や雇用にも影響が出てくる。高すぎる物価は国民にとって大きな負担になるので欧米各国は急ピッチで利上げを実施しその水準を維持してきた。問題は日本経済が利上げに耐えられるのか否かである。
【日銀が利上げした理由】
基本的に利上げは物価対策である。今回の日銀利上げも今後の物価見通しを考えてのこと思われる。
日本のCPIは2023年1月に4.3%のピークをつけ、その後穏やかに低下を続けている。ただし、昨年11月から安定的に2%台後半が続いている。
日本は資源が少ない国なので、多くの企業が原材料等を海外から輸入いる。円安によって調達コストが高くなり物価が下がらない原因になっている。実際に企業物価のうち2割弱は輸入品目が占める。
また、実質賃金はマイナスが続いているが、名目賃金自体は上昇基調が続いてる。要するに人件費の上昇は続いている。
デフレ下と異なり、企業側が相次いで上記のコスト分を値上げで対応している。さらに11月以降に政府の電気代・ガス代負担軽減策が終了するので、その分物価上昇が見込まれる。おそらく、日銀は物価上昇に賃金上昇が追いつかず、26ヶ月連続で実質賃金マイナスという状況から脱却させたいのだと思われる。
上記は理解できるものの、不可解は点は残る。最も大きな疑問は米国がこれから利下げを開始するタイミングなので、ほっともいても円高になっていた可能性が高いことだ。カナダや欧州は既に利下げを開始している。
【日本経済は耐えられるのか】
日本経済の現状を振り返ると、
- 直近のGDP成長率2024年1〜3月期はマイナス成長だった。4〜6月期は2四半期ぶりのプラス成長が見込まれている。
- 住宅ローンの内、約7割は変動金利である。利上げによって利払いが増える。
- 日本の家計は資産2119兆円で債務391兆円と非常に健全。資産の内1118兆円は現金又は預金なので利上げによる預金金利収入による恩恵が大きい。
- 実質賃金の低迷を反映して個人消費は落ち込んでいる。
- 人手不足と賃上げを反映して名目賃金は上昇している。(ただし、有効求人倍率は穏やかに低下傾向)
個人消費は日本のGDPの内5割を占めるので家計の動向は重要である。現状を考えると思った以上に耐久力がありそうだ。円高になることで実質賃金がプラスになるのなら個人消費が盛り上がる可能性はある。
ちなみに、米国は家計の余剰貯蓄が払底しており、失業率も急上昇している。株価については米国経済の影響の方が大きくなりそうだ。
【株価への影響】
前述の通り、日本の家計は意外と耐久力がありそうである。むしろ物価が落ち着くことで個人消費が上向く可能性がある。ただし、基本的に利上げは経済活動にマイナスだ。今回は利上げしたもののまだ金利は0.25%と諸外国に比べてかなり低い水準だ。経済や企業業績への影響は軽微だろうが、今後の動向は大いに注意する必要がある。
一方で注意しなければならないのは、2012年に始まったマイナス金利と大規模緩和による上げ相場が終焉を迎えつつあることである。2012年から日経平均は既に3倍以上値上がりしている。それが全て逆回転することは無いだろうが、大幅な調整は避けられそうにない。米国経済が不況に突入しそうな点も気がかりだ。
次回以降は市場の動向とシナリオを考察していきたい。