【ドル円・日本株】米国雇用統計の結果と株価について
8月1日に米国雇用統計が発表された。結果は労働市場の悪化を示唆するものであり、市場は動揺した。NYダウは1.23%の下落し、ドル円は一気に148円まで下落、日経平均先物は1.96%の下落で取引を終えている。
今回は雇用統計の結果を振り返り、今後の株式市場の行方を考えていきたい。
【米国雇用統計の結果】
米国雇用統計の結果は以下の通り、労働市場の緩和を示すものであった。
- 失業率:4.2%(市場予想に一致)
- 平均時給前月比:0.3%(市場予想に一致)
- 平均時給前年比:3.9%(市場予想3.7%を上回る)
- 非農業部門雇用者数前月比:7.3万人(市場予想10.8万人を下回る)
非農業部門雇用者数が市場予想を下回ったことで、市場は景気減退を懸念し株安、ドル安で反応した。驚くべきは5月と6月の非農業部門雇用者数の下方修正である。
非農業部門雇用者数は以下の通り下方修正されている。
- 5月:12.5万人→1.9万人へ
- 6月:14.7万人→1.4万人へ
合計25.8万人分下方修正されている。米国雇用統計は前回分の速報値が修正されることはよくあることだが、ここまでの下方修正は過去2年分のデータを振り返っても無いことである。5月、6月共に雇用者数が10分の1程度まで下方修正されており、かなり極端な印象を受ける。もはや、この規模で後から下方修正されるのであれば、速報値を確認する意義は大きく低下する。米国労働統計局は今回の下方修正に至った確たる理由を明らかなしていない。
この驚くべき下方修正によって、市場は大きく反応している。関税の影響がありつつも安定していると思われていた米国経済に、突如暗雲が立ち込めたことになる。
さらに驚くべきはトランプ大統領が雇用統計の結果に不服として、労働統計局長を解任したことである。下方修正された期間がトランプ政権の関税政策の開始時期と重なり、意図的に修正されたとトランプ氏は考えているのだろう。意図的に修正された根拠は示されていない。
通常、民主主義国家の統計は独裁国家よりも実態を反映するが、今後の米国の統計に関しては信頼性が低下する可能性がある。
トランプ政権の主張が正しくても、誤っていたとしても、いずれにしても事態は深刻である。
【雇用統計の解釈】
今回発表分と修正分の雇用者数が事実であれば、状況は深刻である。市場は9月の利下げを急激に織り込んだ。
ただし、他のデータも合わせると状況はやや複雑である。例えば、民間調査のJOLTS求人件数とADP雇用統計はさほど落ち込みは見られなかった。求人件数は下落傾向にあるが、その傾向は緩やかになっており、求人件数自体はコロナ前を未だに上回っている。
さらに、7月30日に示された米国の第二四半期GDP成長率は前期比年率+3.0%だった。
また、平均時給が上昇しており、失業率も急上昇というわけでは無かった。労働参加率も減少している。トランプ政権による不法移民対策の効果も考えられ、やや複雑な状況である。
米国経済の状況を測るには、統計も重要だが、今後発表される主だった企業の決算内容を確認することも重要になってくるだろう。
全体的に考えれば、米国経済は横ばいか穏やかに減速している可能性がある。
【まとめ】
雇用統計は米国景気後退を示唆するもので、為替はドル安円高、株価は下落に傾いた。
ただし、本格的な景気後退が始まっているとは言い難く、市場が本格的に景気後退を織り込むのはこれからの統計や企業決算次第だろう。今後米国が主要国と関税交渉の妥結を進めれば、不確実性が低下し、企業による設備投資が増大する可能性もある。
米国景気が穏やかに減速しているのであれば短期的には、ドル安円高、物価安、株安、資源安傾向になる。一方で、景気の谷が深くなるのであれば、今度はFRBの利下げが強く意識される(既に利下げは織り込まれつつある)。
米国は利下げの余地が大きく残されており、金利の低下は株式市場に有利である。ちなみに、日米関税交渉妥結によって日銀の利上げに対する足枷が無くなっている。米国の利下げ、日本の利上げが意識される中では、中長期的には円高方向に進む可能性が高いだろう。
円高と米国景気後退が意識される場合は、日経平均株価の上値は重くなる。そして、その度合いは日米の景気次第になってくる。複雑な展開が続くことだろう。