【ドル円・原油・日米経済】航空株を取り巻く環境について
ドル円は今年1月に158円まで上昇した後、現在148円まで下落している。直近の米国雇用統計では米国労働市場の緩和が確認され、各種景気指標も過熱感は無い。その中で日銀は追加利上げを示唆しており、穏やかな円高が進行する可能性が高い。
原油はOPECプラスが4月から供給拡大を表明しており、米国経済の不透明感が増す中で需給が緩む可能性がある。原油価格は下落基調にあり、WTI原油は1バレル67ドルまで下落している。
今回は円高と原油安で恩恵を受けやすい航空株について、今後の見通しを考えていきたい。
※4月からの供給拡大については、ロシア副首相が見送りの可能性を言及しており予定通り実施されないかもしれない。
【需要は堅調】
ANA、JAL、スカイマークの3社の決算資料を確認してみると、旅客数と座席利用率はやや上昇か横ばいで推移しており、高止まりしている状況である。
売上高も前年を上回っており、需要は堅調に推移している。
需要については、訪日外国人の増加が寄与ている面が大きいと思われるが、今後円高方向に為替が動いた場合は若干勢いが落ちる可能性はある。
ただし、JTBは2025年の訪日外国人数は前年比8%上昇と、過去最高を更新する見込みとしている。過去を振り返っても円高時でも訪日外国人数は増加を続けており、極端な円高にならない限り、増加傾向と考える。
需要面については、機材を急に拡張することは難しいので、爆発的な向上はあまり期待できないが、今後も堅調に推移することが期待できるだろう。
【費用面は日米経済に左右】
燃油や整備費用、機材調達、リース費用等は基本的に外貨建てである。燃油は当然輸入に頼っている。そのため、航空会社は円安や原油高、インフレでは営業費用が嵩み、業績が圧迫される。
為替、原油、インフレについて考えてみる。
欧米各国は利下げに舵を切っており、インフレや過度の円安は落ち着き始めている。米国はトランプ政権の関税政策等が二転三転しており世界的に混乱しているが、結局のところ米国企業に配慮せざる得ないので、関税による過度のインフレ懸念は後退していく可能性が高い。
米国経済は、直近のISM景気指数が製造業、非製造業共に50を上回り堅調さを維持している。雇用統計は若干悪化したものの、こちらも堅調と言える数字である。
一方で、トランプ政権は財政赤字縮小の為に政府支出を減少させる方向で動いており、この動きは経済の下押し圧力になる。その為、米国経済は堅調であるものの、インフレ再燃リスクはやや後退しており、どちらかと言えば利下げに向かいやすい環境になりつつあるだろう。ちなみにGDPナウは一時的かもしれないが、マイナスになっている。今後発表されるCPIで関税による影響がどの程度生じているか、確認する必要があるだろう。
日本経済は1月CPIが4%となる中で、今春の賃上げは前年同程度が期待され、日銀の言うオントラックな状況が続く見通しである。今後、原油安を反映してCPIはやや落ち着く可能性もある。実質賃金のプラスが定着することが重要であり、プラスが定着した場合は内需が喚起されて追加利上げの可能性が高まるだろう。
日米経済はどちらも堅調である。ノイズとしてトランプ政権による関税や日本への要求(防衛費増額や円安の改善等)により若干影響を受けるかもしれない。
為替を予想することは非常に困難だが、相対的に日本の方が前年比でGDP成長率が今年は加速する見込みであり、現状のまま、やや円高方向に動く可能性が高いと考える。
最後に原油についてだが、こちらはこのまま下落基調が続く可能性が高いだろう。ただし、OPECプラスは市況によって供給を調整するので、極端に市況が崩壊することは考えにくい。また、トランプ政権による関税発動とその緩和で世界が右往左往しているが、米国は高度な民主主義国家かつ資本主義国家なので、当然米国企業(米国市民)の声に政策が左右される。実際、カナダとメキシコへの関税除外拡大も自動車や農業の業界団体からの突き上げから実施されたと考えられる。長らく続いたグローバル経済を急に巻き戻すのは特にハード面で困難である。グローバル経済、グローバル企業の中心地である米国では尚更である。
恐らくトランプ政権の各種政策も最終的には穏当なものに落ち着き、それは今までの経済の延長を意味する。原油消費量が多い米国や日本の経済が堅調であることから、原油の需要が急減することも考えにくい。一方で、中国経済は足踏みを続けており、米国は一貫して対中政策で強硬さを保っているので、中国経済の滞りにより、需要に対する期待が大幅に上昇するとも考えにくい。
結果、トータルで考えれば、穏やかな下落基調が続くのではないか。
【まとめ 〜業績の改善には更なる市況改善が必要〜】
円高と原油安がこのまま進むのであれば、航空株には有利である。ただし、本質的には米国経済は堅調であり、円高や原油安が更に進行するのかは不透明である。
円高が続くのであればは、日経平均株価への下押し圧力となり、航空株も影響を受けることになる。業績改善には円高が必要だが、状況は複雑である。
航空会社はコロナ禍で財務状況が大幅に悪化しており、ANAとJALは公募増資も実施している。現在は財務体質の改善途上である。
中長期的には日本経済の向上と日銀による利上げによって、業績改善が望める状況にあると言える。
【関連記事】