経済金融

【米国経済】ソフトランディング達成の鍵は富裕層が握る

yuta8068@gmail.com

筆者は一貫して米国経済のハードランディングを元に投資をしてきたが、今月のFOMCでFRBが経済が一見して堅調であるにも関わらず、予想外の大幅利下げを実施したため、ややハードランディングの可能性は後退したと考えている。個別株は日本株にしか投資していないが、為替シナリオを読むためにも米国経済の動向を確認することは大変重要である。

各種経済指標から米国経済は堅調に見えるにも関わらず、予防的措置の側面を考慮してもFRBによる大幅利下げの決断は謎であった。今回は米国経済のソフトランディングの可能性とその成否を握り大消費者である富裕層の動向について考えることで、その謎を解き明かしていきたい。

【個人消費と富裕層】

米国GDPの内、約7割弱を個人消費が占める。その個人消費の内、実に4割程度を上位20%の高所得層が占めている。米国は先進国の中でもジニ係数が高く、格差社会で知られた国だが、この構造はコロナ後に拍車がかかっている。上位20%の高所得層はコロナ前の2019年から現在にかけて概ね純資産が5倍以上増加しており、他の階層を大きく引き離している。他方で、下位20%以下の低所得層は逆に純資産が減少している。

この構図はコロナ後の米国市場上昇と無関係では無いだろう。NYダウは過去5年で57%程度上昇している。都市部の不動産価格も大きく上昇している。日本でも同様かもしれないが、資産を相対的に多く持つ富裕層は加速度的に資産を増加してきたことになる。

【中間層と低所得層は苦しい状況】

中間層と低所得層は苦しい状況である。以前の記事でも触れているが家計の状況を再度確認しておこう。

  • コロナ禍で積み上がった過剰貯蓄は今年5月時点で払底(SF連銀調査)
  • 4ー6月のクレジットローン債務残高は過去最高。延滞以降率も高水準(NY連銀調査)
  • 第二四半期の家計債務は過去最高を更新し前期比0.6%増。ただし、延滞率はコロナ前の水準を下回る。(NY連銀調査)
  • JOLTS求人件数は求人件数が一貫して減少傾向。
  • ADP雇用者数はコロナ前の水準を下回り、特に小規模事業所の雇用者数が減少。

所得に占める労働所得の割合は上位20%の高所得層は約4割に対して、それ以外の層は約7割を占める。現在は大規模な解雇が発生していないので、求人件数や雇用者数の増加が抑制されていても労働市場はなお健全さを保っているが、求人件数減少等の影響をより鋭敏に受けているのは中間層や低所得層である。賃金の伸びは昨年1月以降鈍化傾向であり、労働所得で家計を支えている層は相対的に苦しい状況である。(ただし、インフレも沈静化に向かっていることも考慮する必要はある)

ウォルマートは7200品目の値下げによって増収に成功し、マクドナルドは「5ドルマック」の延長を12月まで延長することを決めた。中間層以下に馴染みの深い企業の行動は消費の質の低下を表していると言えるだろう。

【まとめ 〜資産効果で持つ経済〜】

2016年の日銀の展望レポートによると、日本では「資産効果」により100円の金融資産価値の増減によって個人消費が2〜4円程度変化すると言う。米国では家計に占める金融資産の割合が日本より多いので、より大きな変化となると予想される。

大幅利下げによってNYダウが連日最高値を更新しており、この状況が続く限り資産効果によって米国経済は支えられそうである。一方で、中間層以下は余力が無く、そのことをFRBは懸念し大幅利下げした可能性はあるだろう(低所得〜中所得層への負担に関しては6月FOMC議事要旨で指摘されている)。利下げによって債務の利払いは減少し、中間層以下は恩恵をより受けることになる。問題はいつまでこの状況が続くかである。第二四半期決算で多くの企業業績が良好であれば株価上昇も維持され、その場合はソフトランディングも可能かもしれない。逆に経済指標や雇用統計等のイベントにより株価が下落する事態になれば、一気にクラッシュする恐れもある。

今回のあくまでも一方面からの考察であるが、米国経済は若干綱渡りに近いのではないか。ソフトランディング達成の鍵は現在のところ、富裕層が握っている。

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青髭
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会社員、個人投資家
日本個別株に投資を続ける個人投資家です。本業が会社員のため限られた時間でしっかり成績を残し、本業に支障がきたさない事を念頭に投資を続けています。 経済、金融、投資に関する適切な情報発信を心掛けていきます。
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