経済金融

円高シナリオでの有望セクター、空運株の株価は離陸するのか?

yuta8068@gmail.com

前回の記事でも紹介した通り、空運株は日経平均にアンダーパフォームしておりコロナ禍前の株価を回復できておらず大きく出遅れている。

筆者はその原因をここ2〜3年の円安、原油高、コロナ禍で生じた株価希薄化と債務の増加と考えている。今後の展開を探索していきたい。

【空運セクターは大きく出遅れている】

コロナ禍前、日経平均株価は23000円、ANAは3700円、JALは3400円程度である。それが2024年7月28日現在、それぞれ日経平均37667円(約1.67倍)、ANA2898円(約0.78倍)、JAL2416円(約0.71倍)である。

ANAとJALは共にコロナ禍で増資を実施しており20%程度株価が希薄化されている。株価希薄化を考慮するとANA、JAL共に現在の株価はコロナ禍前の水準にやや届かない程度の株価ということになる。それでも日経平均全体への資金流入と比較して物足りない。まだ今の株価から1.5倍程度の上昇余地はありそうである。

【円安影響を受ける空運業界】

ANA、JALに共通しているのはインバウンドはコロナ禍前まで回復し、単価は上昇しているが、アウトバウンド(日本からの出国)が未だコロナ禍前の5割〜6割程度であることだ。

2019年はドル円110円程度であったことを考えると現在の為替水準はアウトバウンドにとって大きな向かい風である。ANA芝田会長は航空業界にとって心地よい為替水準は「125円」、JAL鳥取社長は「130〜140円程度」と発言しており、現在の水準からかけ離れている。もし円高になりアウトバウンドが回復した場合、業績に大きなプラス寄与となる。

ちなみに、現在の為替と原油の水準(155円/ドル、シンガポールケロシン100ドル/バレル)についてだが、JALの決算説明会資料(2024年3月期)によるとEBITに約30億円のマイナス影響があるという。

FRBによる利下げが意識され、円高に振れた場合、アウトバウンドが回復し各種費用が削減されて、大きな増益が見込める。今後の円高シナリオについては下記記事も参照されたい。


【原油価格の見通しを考える】

言うまでもなくなく、原油価格は航空機の燃油費に直結する。ヘッジしていたとしても大きな影響を受ける。

ANA、JALそれぞれ今期の原油価格を1バレルあたりドバイ原油で80ドルと90ドルの見通しで業績予想を組んでいる。JALの方がやや保守的な予想である。現在足元では82ドル前後で推移しており、第一四半期は両社共に影響は軽微かプラスの水準で推移している。

今後の原油価格の見通しを考えてみたい。供給サイドでは世界最大の産油国は米国であり、2位ロシアと3位サウジアラビアが加盟するOPECプラスの産油量が価格に大きな影響を及ぼす。また、需要サイドでは原油消費量は1位米国、2位中国、3位インドである(ちなみに日本は6位)。

供給サイドでは、今年6月のOPECプラスで9月末でコロナ禍から続く現在の減産量を緩めることが決定された。もちろん、需給を見て今後変化する可能性はある。

OPECプラスで影響力のあるサウジアラビアは自主減産と原油価格の下落が響いて、GDP成長率は2023年はマイナス成長、2024年第一四半期もマイナス成長だった。難しいところだが、率先して減産してきたサウジアラビアも現在の減産水準を維持していくのは自国の経済を鑑みると困難なのではないだろうか。一方の米国は2024年、2025年にかけて産油量が過去最大になる見通しだ。

需要サイドでは中国経済の減速が重しである。2024年はGDP成長率が4%台に落ち込む見通しだ。今月に入り中国人民銀行が利下げを発表しており、足元の経済状況は芳しくない。米国は好調維持しているが雇用環境は徐々に悪化しており、年内利下げを市場は予想している。

総合すると、米国の利下げがあるものの(一般的にドルの金利が下がると原油価格は上昇する)、原油価格の需給は緩み、原油価格は穏やかに下落していくと予想する。また昨年から続くイスラエルとハマスの紛争が終了した場合、さらに下押しされるだろう。

【債務の返済は続く】

コロナ禍で空運業界の財務は傷つき、自己資本比率は大幅に低下した。ANAは2026年3月末までに有利子負債を5000億円減少させ自己資本比率を40%前後まで回復させる計画だ。JALは毎年1000億円程度返済し、2025年3月末までに同じく40%台まで自己資本比率を回復させる計画である。

ANA、JALの直近純利益はそれぞれ1570億円、955億円であることを考えると大きな負担だが、逆に考えると債務を返済しつつ利益を出せるまで業績が回復していると言える。また、中長期的には債務の返済が落ち着けば利益の上乗せ、株主還元を期待できる。仮にコロナ禍で生じた増資分が巻き戻された場合、株価は大幅に上昇するだろう。

【まとめ】

足元の航空需要、訪日需要の高止まりも加味すると円高シナリオが現実となった場合、有望な投資先ではないだろうか。訪日需要については円安が始まる前から好調だったし、円安で上ブレした面があるにせよ日本文化等のソフトパワーが衰えない限り今後も堅調に推移するだろう。

債務やアウトバウンド等の状況を考えると未だ本来の力を発揮できているとは考えにくい。現在の株価水準を考えると投資妙味はありそうである。

空運セクターは為替、原油市況、世界経済に大きく影響されるため難易度が高い。それだけ目配せが必要なわけだが、リスク許容度の範囲内で投資することで、毎日目に留まるニュースがいつもと違う風景に変わるはずだ。

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青髭
青髭
会社員、個人投資家
日本個別株に投資を続ける個人投資家です。本業が会社員のため限られた時間でしっかり成績を残し、本業に支障がきたさない事を念頭に投資を続けています。 経済、金融、投資に関する適切な情報発信を心掛けていきます。
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