【日本株】日本製鉄のUSスチール買収計画について
5月23日、トランプ大統領が日本製鉄によるUSスチール買収を承認したとの報道が出た。日本製鉄はこの判断を英断して、声明を発表。完全子会社化が認められたに見えたが、その後さらにトランプ大統領は「これは投資だ。部分的に所有することになるが、管理は米国が行う」と発言。最終的にどのような着地になるのか依然不透明である。
今回は日本製鉄によるUSスチール買収と投資判断について考えていきたい。
【日本製鉄によるUSスチール買収計画とその理由】
日本製鉄は技術力の高い会社で、鉄鋼の中でも高級鋼板と言われる付加価値の高い製品を製造し販売している。橋本現会長はこの技術力を背景にトヨタ等の自動車各社と交渉し、また生産量を落とし単価を引き上げることで業績を回復させた。
ただし、日本は鉄鋼については世界第3位の生産国であり、輸出超過の状況であり、国内市場はこれ以上の伸びは望めない。そこで日本製鉄はインド等の海外進出を積極的に進めてきた。丁度その時期に米国鉄鋼大手USスチールの買収チャンスが出現した。2023年に日本製鉄とUSスチールの両社はUSスチールが日本製鉄の完全子会社になることで合意し、その後株主にも承認されたが、バイデン政権下で米国競合他社や労働組合等の反対にあい買収計画が実行されないまま、現在に至っている。
日本製鉄のUSスチール買収額は約2兆円、当初はUSスチールへの投資額は2000億円程度と発表されていたが、完全子会社化を目指す過程で10倍の約2兆円まで膨らんでいる。つまり、買収と投資で合計4兆円である。日本製鉄の営業利益は約5400億円、USスチールは約1400億円である。非常に大きな投資である。日本製鉄は現金を6700億円保有しているが、不足しているので借入か増資が必要になるだろう。
日本製鉄がリスクを負って買収を計画する理由は米国市場の環境にある。まず、米国は中国産鉄鋼の流入を阻止している。そして、主要国の中では鉄鋼の輸入超過国である。しかも輸入の超過度合いが主要国の中でも大きく、先進国かつ車社会なので日本製鉄が得意とする高級鋼板の需要が高い。米国は先進国の中でも安定的に経済成長してきた実績もあり、経営陣は挑戦に値すると考えたのだろう。
【投資判断は交渉の行方次第】
筆者は年初にトランプ大統領はバイデン政権での決定を覆すものと予想していた。ある程度予想通りではあるが、思った以上に難航している印象である。
(ただし、そもそも4月のトランプ関税ショックも予想外だったので、トランプ政権での推測にどれ程の意味があるかは不明である。)
トランプ大統領は大統領選挙の最中から買収計画に反対していたが、選挙中に完全反対から微妙にトーンを変え、現在は「投資」なら可とする姿勢である。「投資」や「部分的な保有」を意味するところは日本製鉄が目指す完全子会社化ではない。
予測は困難だが、日本製鉄以上の好条件をUSスチールと米国に提示できる会社は他に無い。何といっても時価総額を超える買収及び投資計画である。その為、日本製鉄が「交渉のスタート地点は完全子会社化」としている以上、トランプ政権はその点を認める可能性は高いのではないか。ただし、来年の中間選挙と労働組合への配慮から、国内の買収反対派が納得出来るだけの、何らかの大きな制約を課す可能性も同時に考えられる。
投資判断は非常に難しいところである。自己資本比率は49.2%と過去20年でも最大、現金は6700億円だが、利益余剰金は3.8兆円まで積み上がり、有利子負債を際し引いても1兆円以上ある状況である。だがそれでも4兆円もの金額はリスクが大きいと言える。少なくともトランプ政権の正式発表とその詳細、及び日本製鉄の資金調達と投資計画を確認してからでも遅くは無いだろう。
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