経済金融

【ドル円・日本株】トランプ関税と市場の帰結

yuta8068@gmail.com

株式市場、ドル円の値動きは目まぐるしかった。トランプ政権が追加関税を発表後株価は急落し、ドル円は下落。その後、トランプ政権が国別の相互関税を90日間停止すると発表(中国を除く)し、株価とドル円は急回復し翌日には下落した。

今回はトランプ政権による相互関税と市場の動きについて考えていきたい。

【国別の相互関税停止の理由】

各種報道のよると、相互関税一時停止の理由は以下のようにまとめられる

  • 東京時間の9日昼頃に突如米国債の売り(米金利の急上昇)が発生。時間帯から邦銀による米国債売りが原因として考えられる。時間帯的に米国債は時間外で板が薄く、値動きは出やすい状況だったようである。何故その様な時間帯に大量の売りが発生したのか、仮に邦銀が本当に売却したとして、明確な理由は不明である。
  • ヘッジファンドが株価下落により、国債等の資産を売却したことも考えられる。
  • 中国による相互関税への対抗処置(米国債の売却)も考えられる。ただし、可能性は高くないとされている。
  • 米国企業や投資家、トランプ政権支援者(ビル・アックマン氏等)、金融関係者(ジェームズ・ダイモン氏等)からの批判や懸念。
  • ベッセント財務長官が中心となり、米国債金利の急上昇を理由にトランプ大統領を説得した可能性。

相互関税一時停止の流れを考えると、邦銀による売却と考えるのが自然である。国別で見ると、日本が世界最大の米国債保有国である(全体の12%程度保有)。

日本の民間銀行の売却であっても、金利急上昇をもたらし、トランプ氏が相互関税を翻意させる理由になる程に米国を刺激するのであれば、事前に日本政府と何らかの意思疎通が図られていたと考えるのが自然だろう。

トランプ大統領は90日間の相互関税停止を発表後、日本との関税交渉にベッセント財務長官を任命している。ベッセント財務長官は「日本は交渉の先頭にいる」と優先する意向を示している。ベッセント財務長官はアベノミクスを参考に経済政策を発表するなど、知日派である。米国債売却の事前か或いは事後かは不明だが、日本の当局者とベッセント氏が意思疎通して、最終的にトランプ大統領を説得したことも考えられる。

一連の流れを考慮すると、日本と米国の関税交渉材料の一つに、裏では米国債の保有(或いは追加購入や100年債の購入)が出てくる可能性はあるだろう。

【関税政策を含む経済政策のトランプ政権の意図】

改めてトランプ政権が実施している経済政策の意図を整理しておく。

  • 減税:4月10日にトランプ減税の概要に関する法案が米下院を通過。減税が実現すると内需を喚起。
  • 財政赤字削減:ベッセント財務長官は財政赤字をGDPの3%未満まで目指すとしている。関税と関税交渉による米国内投資と米国内産業活性化。DOGE省による政府支出削減。
  • ドル安誘導:関税交渉によって実現。米国内生産品の競争力強化の為。
  • インフレ対策:財政支出削減と関税による世界的な需要不足と国内生産増加、原油等の資源価格下落によって実現を目指す。
  • 軍事同盟の再構築:軍事同盟国に対し、安全保障と引き換えに相応の軍備と軍事費の支出を要求。場合によっては利払いの伴わない100年債の購入を義務付け。
  • 中国対策(覇権の維持):制裁と関税交渉、経済同盟の構築、軍事同盟の再構築、ウクライナ戦争終結によって中国を孤立。中国政府に対し元安と過剰生産の是正、内需換気の為の財政支出と市場の開放を要求。

世界中がトランプ政権に振り回されている印象があるが、これまでのトランプ政権の行動には一貫性があり、恐らくその行動は綿密な理論に裏付けられている。ブレーンはミラン氏、ナバロ氏やベッセント氏だと考えられる。この中でも株式市場や為替に精通しているベッセント財務長官が表舞台に登場してきており、急進的な動きはやや抑えられると予想できる。

見ての通り株価対策等の金融やイノベーションに関する政策はあまり無い。これらは元々米国の得意分野であり、無視しているというよりも、後回しになっているのではないか。

また、米国の財政赤字は深刻度を増しており、利払いは軍事費を超える水準まで上昇している。トランプ政権にとって財政赤字縮小と金利低下は必須事項となっている。

尚、上記の政策を滞りなく実行できるかは疑問である。例えば、ドル安とインフレ対策は矛盾する場合があるし、日本等の同盟国が米国債の保有を減らせば米国債市場の信認が低下し、今回の様な金利急上昇や危機が発生する。今後は政策の順序や強度を調整しより慎重になると予想される。

日本にとって重要なポイントは、安全保障と為替、米国の中国対策が強烈になってきている点である。日本も米国の意図を捕捉し、日本独自の考えで動いていく必要がある。

【まとめ 〜国際情勢を考慮した中長期的な視野での銘柄選択が必要〜】

トランプ政権がこのまま一貫した政策を維持した場合、日本への影響を考える必要があるだろう。

方法は様々考えられるが、紆余曲折の末、最終的にはドル安と円高へ向かう可能性が高い。製造拠点も一定程度米国内に移転することも考えられるだろう。

また、直近3月の米国CPI、PPIは共に市場予想を下回っており、関税による物価上昇を吸収した後は再びディスインフレ方向へ進む可能性が高い。そうなればFRBによる利下げが意識される。その後、米国株が素直に上昇するかは不透明である。少なくとも関税交渉後の企業業績を織り込む必要がある。

日本は関税による混乱が収束した後、日銀による利上げが再開される可能性が高い。ただし、世界的にインフレが沈静化していた場合、当初よりも上げ幅は低くなる可能性はある。円安が是正され、実質金利のマイナスが解消されれば利上げの必要性が低下する為である。

原油についても、価格が下落しているにも関わらずOPECプラスは増産の姿勢を崩していない。このまま原油安が続けば、日本の貿易収支は徐々に黒字化していくだろう。

場合によっては一気に円高方向に進む可能性もある。中長期的には円高メリット銘柄が有利になるだろう。

さらに、日米貿易赤字の是正の為に、日本政府が内需喚起の為の財政支出に同意する可能性はある。(単に輸出企業の支援や景気対策で実行されることも考えられる。ただし、日本の財政赤字を考えれば余地は少ない)

米国の対中政策を考えると、日本との交渉は諸外国に比較すると穏当になるのではないか。日本の国力を大きく下げたり、日米関係が破綻する事態は避けるはずである。

恩恵を受けそうな銘柄を考えていくと、具体的には、小売業、空運業、旅行銘柄、輸入関連銘柄、内需関連銘柄が挙げられる。防衛関連も有望である。
円高によって、大型株中心の日経平均株価は上値が抑えられる可能性が高い。日銀の利上げ幅が想定より低くなりそうな場合は、小型株やグロース寄りの銘柄が比較的選好されることだろう。


また、中国の出方次第ではあるが、仮に米中交渉が行われ中国が内需喚起の為の財政支出に合意した場合、中国国内の消費が喚起される可能性はある。人民元が切り上げられる可能性もある。中国共産党の独裁体制の維持には、中国国民がこれ以上豊かになることや内需拡大にインセンティブが働かないので、規模や実施については不透明ではあるものの、中国関連銘柄にも注目しておく必要があるだろう。

何れにせよ、不安定な相場が続くことだろう。全てがトランプ政権の思い通りになる訳ではない。米国と各国の交渉次第では様々なシナリオに備える必要がある。

※追記
トランプ政権はスマホやPCに関わる電子部品や半導体、半導体装置等の関税を中国も含め全面的に免除するとした。理由は消費者の反発を防ぐためである。前回記事の3つ目のシナリオが早くも出現しており、少々驚いている。
思いの外、トランプ政権は米国企業の業績や消費者の反応を気にしているようだ。
もしかすると自動車関税始め多くの関税解除も早い段階で検討される可能性が出てきている。車社会の米国で自動車価格が上昇するのは消費者が耐えられない事が十分考えられる。また、スマホやPC等のテック企業だけ優遇するのか、という話にもなるだろう。
多くの関税が解除されるのであれば、実質元通りであり、残るのはCPIとPPIが減速しドル安になり、原油等の資源価格が下落しているディスインフレ傾向である。ディスインフレになればFRBが利下げ出来る環境になり、ドル円は下がり、株価はやや持ち直すことが可能な状況になってきている。

※追記 その2
4月14日にトランプ大統領は半導体に関しては独自の関税を課すとした。相互関税に例外は無いとしている。
毎日目まぐるしく報道が出てくるので、国々も企業も右往左往していることだろう。
とは言え、結局のところ市場や消費者の反発が抑えられる範囲内に決着するのではないか。トランプ政権の今のところの動きを考えると、その様に結論付けられる。

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青髭
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会社員、個人投資家
日本個別株に投資を続ける個人投資家です。本業が会社員のため限られた時間でしっかり成績を残し、本業に支障がきたさない事を念頭に投資を続けています。 経済、金融、投資に関する適切な情報発信を心掛けていきます。
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