経済金融

【日本株】日本製鉄によるUSスチール買収可否について

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米国のバイデン大統領が1月3日に買収禁止命令を出した、日本製鉄によるUSスチールの買収だが、不当な政治的介入があったとしてCFIUS審査と買収禁止命令の無効を求める訴訟に発展している。

米国大統領が日本企業による米国企業への買収について禁止命令を出すのは初めてである。CFUISは買収計画を破棄する期限を2月2日から6月18日まで延長した。

今回は日本製鉄によるUSスチールによる買収可否と株価への影響について考えていきたい。

【日本製鉄の買収計画は達成されるのか】

筆者は買収成立の可能性は5分5分だが、やや日本製鉄に分があると見る。この買収計画は米国大統領選挙に巻き込まれる形で停滞し、大統領選挙後に冷静な判断が下され買収が成立すると楽観視されていた。

だが、実際には買収を審査するCFUISは判断を大統領に委ね、バイデン大統領は禁止命令を出した。

今後の動きについてだが、訴訟の結果次第、トランプ政権による政治判断になってくるだろう。以下、情報と筆者の考えを整理しておく。

  • 日本製鉄による提訴を考慮して、CFUISは買収計画破棄期限を6月18日まで延長。期限延長が提訴を考慮したものであるならば、訴訟が長引けばこの期限の再延長も有り得るだろう。
  • 米国のバイデン大統領は買収禁止命令を出した。政権内でも事前の話し合いの中で、禁止命令に対し財務長官と国務長官等が懸念を示し、複数の高官が妥協案を大統領に提案していたとの報道が出ている。これらの情報を考えるとバイデン大統領の判断は、今後の中間選挙や次期大統領選挙を見据えた、労働組合に配慮した政治的な介入だった可能性は高い。
  • 日本製鉄が勝訴できるかは不透明である。訴訟自体、トランプ政権で判断が覆されることを期待した、時間稼ぎの可能性もある。
  • 米鉄鋼大手クリフスのCEOは「日本は邪悪」と強い口調でこの買収計画を非難。非難だけでなく、買収不成立に向けた働きかけがあった可能性は高い。クリフスはUSスチールに対する買収に意欲を示している。それだけUSスチール買収を通じて日本製鉄が北米市場に本格参入することに対して、脅威を感じているということだろう。
  • 米自動車業界団体の自動車イノベーション協会は昨年3月にクリフスによるUSスチールの買収に対して懸念を表明し、書簡をホワイトハウスに送付していた。ホワイトハウスが日本製鉄による買収を懸念するのであれば、クリフスによる買収の悪影響も検討しなければならない、としている。クリフスのよる買収が成立すると鉄鋼業界の寡占化が進み、買い手にとって不利益になる為である。
  • USスチールが拠点を持つペンシルベニア州とインディアナ州の市長20人が日本製鉄の買収計画に賛同し、その旨の書簡を昨年12月にホワイトハウスに送付していた。クリフスの買収提案は日本製鉄を上回るものではなく、今後こうした地元の賛同が広がる可能性がある。
  • トランプ氏は大統領選挙期間中、買収反対の姿勢を明確にしており、1月7日にも自身のSNSで買収反対の立場を表明している。ただし、ウクライナ問題等でもそうだが、既に軌道修正している選挙公約もあり、日本製鉄による買収計画が米国への投資と理解したら賛成する可能性がある。
  • トランプ氏とトランプ政権の重要閣僚やイーロンマスク氏は、今のところ、日本への批判や関税等の圧力を表立っては控えている。対中政策を考えて、日本を重要視しているか、安倍政権時の日本の立ち振る舞いの記憶や日本の歴史文化への敬意からかもしれない。
  • 次期財務長官のベッセント氏はCFUISに買収計画が再申請された場合、通常審査すると上院公聴会で発言している。

情報を総合すると、バイデン大統領による買収禁止命令は経済的に考えれば理に適ったものでは無いことになる。安全保障上の懸念点も明確ではなく、根拠に乏しいと言える。

日本製鉄にとっては、どの道大統領が禁止命令を出すのであれば、トランプ政権まで先送りされずバイデン大統領が禁止命令を出したことは幸いである。トランプ氏にとって自身の選挙公約を明確に破ることよりも、民主党政権による判断を覆す方がハードルが低い為である。日本製鉄の橋本会長は会見で、バイデン氏の事を呼び捨てにしていたが、トランプ氏との交渉を意識してのことかもしれない。

明日にはトランプ政権が発足するが、その後の動きが重要になる。特に石破首相とトランプ氏との相性が重要になってくるだろう。この辺りは未知数だが、良い方向になることを祈るしかない。

【日本製鉄の株価について】

今回の買収計画は2兆円を超え、日本製鉄にとって大きな取引である。それだけに買収の成否が明確になるまでは、現在の株価水準の3000円前後あるいは3000円台前半で推移する可能性が高いだろう。

買収後の影響については、未知数ではあるが、財務状況が悪化し増資への懸念から株価は下落する可能性がある。ただし、日本製鉄の技術がUSスチールに共有されることで業績が向上することが予想できる。そもそもUSスチール自体、年々業績が悪化しているが、一応黒字の企業である。

また、米国の鉄鋼業界は中国の鉄鋼流入を阻止する等保護されており、競争力はさほど高くないと考える。北米は先進国の中でも鉄鋼需要が高く、日本製鉄が得意とする高品質の鉄鋼商品の需要が大きい。今回の買収は中長期的には日本製鉄に良い影響をもたらすだろう。それは将来的な株価の上昇を意味する。

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青髭
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会社員、個人投資家
日本個別株に投資を続ける個人投資家です。本業が会社員のため限られた時間でしっかり成績を残し、本業に支障がきたさない事を念頭に投資を続けています。 経済、金融、投資に関する適切な情報発信を心掛けていきます。
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