【ドル円・日本株】米国経済のインフレ再燃リスクについて
米国の11月の雇用統計、CPIが発表され、概ね堅調な数字を示している。
ただし、労働市場は徐々に落ち着きを取り戻しているが、CPIは下げ止まりの感が出てきている。雇用統計やCPI等の主要経済指標イベントを消化し、市場は株高ドル高円安が継続している。
今回は米国で可能性として存在するインフレ再燃リスクについて、主要な経済指標を振り返り、そして今後のドル円と日本株の展望について考えていきたい。
【11月米国雇用統計】
12月6日に米国雇用統計が発表された。内容を確認しておこう。
- 失業率:4.2%
- 非農業部門雇用者数:22.7万人
- 前月比平均時給:0.3%
- 前年比平均時給:4.0%
失業率以外は全て市場予想を上回る結果であった。概ね労働市場は堅調である。
肝心の失業率は前月から0.1%悪化している。ただ、今年の夏頃に懸念されていた失業率の急激な悪化には至っていない。失業率は急激に悪化するため注意を要するが、現在の失業率4〜5%は米国では完全雇用の水準であり堅調な経済環境を反映していると言えるだろう。そして、平均時給の伸びもコロナ前よりも依然高い水準である。
この秋の決算シーズンで米国大企業の決算内容は全体的には堅調さを示しており、米国雇用の約半数を占める大企業の業績は問題無さそうである。
また、雇用統計以外の指標も確認しておこう。
- JOLTS求人件数(10月):774.4万人(前月改定値737.2万人)
- ADP雇用者数(11月):14.6万人
注目は一貫して低下していたJOLTS求人件数が下げ止まり、前月比で上昇に転じている点である。元々低下していたと言ってもコロナ前のよりも高い水準で推移していたが、もし今後も下げ止まりの傾向が続くのであれば、ハードランディングを回避できた可能性は高くなる。求人件数についても、米国企業の堅調な業績や経済活動を反映していると言えるだろう。
【米国家計は堅調さを維持】
米国経済の6割〜7割は個人消費が占め、その個人消費は家計が支えている。
では米国家計の状況はどうか。
- コロナ後の過剰貯蓄(約2.1兆ドル)は今年3月時点で払底(SF連銀調査)
- 個人可処分所得は一貫して上昇傾向(米国商務省)
- 米国家計の純資産は前年比+7.5%(上半期、FRB)
コロナ後の過剰貯蓄が払底している点で注意が必要だが、米国経済を支える個人消費は今後も堅調さが維持されそうである。
米国家計の特徴として、資産の約52%が不動産(27.8%)と株式(24.4%)は占める点である。日銀の調査によると、日米の家計の金融資産構成を比較すると、日本では金融資産の50.4%が現金又は預金だが、米国では53.3%が株式又は投資信託である。現在の米株高が継続すると、米国家計の純資産は拡大していくことになる。
以前の記事でも紹介したが、家計に占める金融資産の割合が大きい米国は日本よりも資産効果が大きい国である。このまま株式市場、不動産市場が好調である限り、米国の個人消費も保たれそうである。
懸念点としては、NYダウのPERは直近で27.58とやや高めの水準であり、何かのきっかけで市場が崩れると米国経済も一気に悪化する可能性である。可能性としてはインフレ再燃による利下げ停止、あるいは利上げ再開であり、金利上昇によって株式市場が崩れれば米国家計に大きな影響を及ぼす。
【CPIの結果について】
11月分米国CPIに結果を確認しておこう。
- コア前年比:3.3%
- コア前月比:0.3%
- 前年比:2.7%
- 前月比:0.3%
全てが市場の予想通りとなっており、結果を受けて市場は12月中のFRBによる利下げを織り込んでいる。対前年比で2ヶ月連続で上昇していることには注意が必要である。もしこのまま上昇を続け、再び3%を超える状況になるとインフレ再燃リスクがより意識されるようになるだろう。
【まとめ 〜インフレ再燃リスクとドル円の見通しを考える〜】
上記を総合すると、コロナ後の過剰貯蓄が無くなったことを踏まえて、筆者はコロナ後に起きたような過度なインフレの再燃可能性はあまり高くないと考える。また、日本を除く主要国が利下げに転じている点や、原油市場が落ち着いており今後も低迷する可能性が高いことも、過度なインフレ再燃リスクの可能性を引き下げている。米国は莫大な貿易赤字を抱える国(つまり輸入が多い国)なので、世界がディスインフレに傾くのなら、インフレは緩和されることになる。
ただし、米国企業の業績と米国株式市場が堅調な点で、現在の消費者マインドが保たれて、コロナ前に比較して穏やかなインフレは続く可能性が高いだろう。
FRBによる利下げは中立金利を探る展開になると思われる。12月の利下げは当確だろうが、その後は当初FRBが考えていた2%台までの利下げは困難かもしれないし、そのペースは当初の予想より穏やかになる可能性が高い。日銀は日本経済に過熱感が無いことを踏まえて、1%までの追加利上げの姿勢を示しつつも、米国の経済状況に合わせた利上げペースにしていくことだろう。
そう考えると、ドル円は暫くは米国経済次第である。ドル円の見通しだが、米株式市場が好調である限り、現在のドル高は続きそうである。日本株についても、来年は今年よりもGDP成長率が期待できるので堅調さが予想できる。
米国経済は今後は特に株価、失業率、CPIの綱引きとなりそうである。インフレ再燃が無いとなれば、FRB利下げ、日銀の利上げが意識されることになるので中長期的には円高方向に進む可能性が高まるだろう。
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