経済金融

日銀が直ぐに利上げできない5つの理由

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歴史的な円安が続いているが、日銀は有効な対策を打ち出せないでいる。あるいは、敢えて受け入れている可能性がある。特に他の主要国と比較して利上げをほとんど実施しておらず、その回数はマイナス金利解除の1回のみである。財務省による為替介入は時間稼ぎになっているが根本的な解決には至っていない。

結論、日銀が利上げできない理由は日本経済の弱さにある。

大前提の話として、一般的に利上げ(金利の引き上げ)は経済活動にはマイナスである。中央銀行が利上げすると、最終的に個人や企業の借金(ローン)の金利が上昇し支払い総額が増加する。当然、個人レベルでは家や車などを購入しにくくなるし、家や車に企業の売り上げは下がることになる。企業としても借金をして新たな事業を始めたり、設備投資をしにくくなるのだ。

利上げを実施すると、通常は通貨高、日本だと円高方向になると言われている。

【個人消費の低迷】

日本のGDPの6割を個人消費が占めている。個人消費とはその名の通り個人(家計)が物やサービスの当てた金額の総合計のことである。この個人消費の動向を把握する指標に日銀が発表する「消費活動指数」がある。

実はこの消費活動指数はコロナ禍前の水準を依然回復していない。つまり、日本の個人消費は低迷し続けており、日本経済は脆弱な状況なのだ。

余談だが形態別消費を確認すると、非耐久財の消費活動は一貫して低下し続けているが、サービスの消費活動は完全に回復している。国民の消費活動がコロナ禍を通じて、モノ消費からコト消費に変化している可能性が高い。銘柄選択のヒントになりそうだ。

【実質賃金の低迷】

前述の個人消費低迷に繋がる話だが、日本の実質賃金は低迷し続けている。実質賃金とは毎月労働者が受け取った給与(名目賃金)から物価変動の影響を差し引いて算出した指数のことだ。

つまり、実質賃金は毎月労働者がモノやサービスに使える量を示すことになる。この指数がなんと2024年7月時点で26ヶ月連続でマイナスなのだ。

賃上げを上回る物価上昇によって、家計には全く余裕がないようだ。個人消費低迷が長く続いていることに符合する。

ちなみにコロナ禍前の日本は円高とデフレが原因で賃金が上がらず、実質賃金が上がらないことに苦しんでいた。そう思うと単純に利上げして円高にすれば良い話にはならず難しいところである。

【住宅ローンへの影響】

利上げが行われると借金の金利も上昇するが、住宅ローン金利も例外なく上昇する。住宅ローンの場合、銀行が金利を引き上げても直ぐに影響が出ないよう処置が講じられているがいずれにせよ支払い総額が増加し、家計には負担となる。

住宅ローン金利には固定金利と変動金利があるが、住宅金融支援機構によるとローン利用者の7割が変動金利だという。今までの低金利を前提にローンを組んでいる利用者には影響があるだろう。

ただし、前述の通り日本経済が強くないため利上げ幅さほど大きくならないだろう。ちなみに、ローンの支払い済み年数にもよるが、3000万円を35年ローンを組み、金利0.5%(利上げ2回程度)上昇した場合は月の支払いが1万円程度上昇するようだ。

【株式市場への影響】

一般に利上げをすると株価は鈍化、あるいは下落傾向になる。これは利上げすると経済活動にブレーキがかかり企業の収益が悪化するのと、より低リスクの債権投資の利回りが上昇するためだ。

これは日銀というより政府の判断かもしれないが、今年から政策として新NISAを開始し広く国民に推奨している中で株価が下がる可能性が高い施策は実施しにくいだろう。

【円安による恩恵を受けるため】

政府や日銀が敢えて今の円安を作り出したのか、あるいはある程度受け入れしかなかったのか。恐らく後者だろうが、もしそうだとしても円安の恩恵を本格的に受けるのは今年からかもしれない。

日銀短観によると企業による設備投資は堅調が続いているようだ。円安が続くことで日本で製造することが割安と判断する企業が増加する。企業としては、現在の円安が永続するのか見極めているところだろう。設備投資増加は通貨安が始めってから3年前後かかる。円安が始まったが2021年なので今年からようやく円安による恩恵が生じることになる。

【まとめ】

現状、日銀は利上げしにくいのではないか。上述の通り日本経済に余力が無く、利上げは難しいとの判断になるだろう。余力が無いことを市場参加者に見透かされ、安心して円売りされている側面もあると思われる。(ちなみに為替市場は実需が1割、投機が9割である。)

FRBや各国中央銀行の利下げ待ちの状態が続いている。果たしてこのまま歴史的な円安が続くのか、次回以降も検討して行きたい。

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青髭
青髭
会社員、個人投資家
日本個別株に投資を続ける個人投資家です。本業が会社員のため限られた時間でしっかり成績を残し、本業に支障がきたさない事を念頭に投資を続けています。 経済、金融、投資に関する適切な情報発信を心掛けていきます。
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