【日本株】良品計画24年8月期期末決算を考える
10月11日に良品計画の本決算が発表された。内容は過去最高収益を達成したものの、会社発表の来期予想が増収減益だったことが嫌気され、決算発表後のPTS取引(夜間取引)では2611円まで売り込まれている。
今回は良品計画の本決算を振り返り、今後の株価見込みを考えていきたい。
【24年8月期期末決算概要と来期予想】
会社の来期予想は増収減益となった。減益予想の主な要因は2つ。1つは為替レートの変動、もう1つはグローバル販管費の増加である。
1つ目の為替レートの要因を考えていく。
良品計画は営業収益の内41%は海外が占めるため、純粋な円高メリット株とは言い難い。過去の記事で円高メリット株として扱っていたが、この考えは若干の修正が必要である。後述の通り、現在は為替変動の影響を受けにくい企業と言える。今回の決算発表でも海外事業については円安による円換算での営業利益率押し上げ効果が言及されていた。今期の会社発表のデータを確認しておこう。
- 営業収益6616億円(前期比113.8%)、営業利益561億円(169.4%)、営業利益率8.5%(前期差+2.8pp)、EPS157.1円
- 実績為替レート(ドル円):約150円
続いて、来期予想を確認しておく
- 営業収益7340億円(前期比110.9%)、営業収益550億円(前期比98%)、営業利益率7.5%(前期差-1.0pp)、EPS143.6円
- 前提為替レート(ドル円):約146円
15日から市場が開くのでまだ何とも言えないが、先行するPTS取引を参考にすると減益予想が市場に嫌気される可能性は高い。(一般論として、PTSの株価は極端に振れることが多いのであくまで参考程度ではあるが、、、)
前提為替レートの146円は現在149円台で推移していることを考えると、米国経済指標によってはもう少し円高に振れる可能性があり、その場合はさらに減益になる可能性がある。今期の海外事業の営業利益予想は445億円である。仮にドル円146円から10%程度円高に触れた場合(ドル円131円)は44.5億円、海外事業の営業利益が減る計算である。そこまで円高が進んだ場合は、国内事業の利益率向上が期待できるのでもう少し穏やかな数字になるだろう。一方で、国内事業の利益率が131円もの大幅な円高によって1%向上した場合、43億円程度営業利益が向上することになる。
今期の営業利益は海外事業の方が多いが、営業収益(6割)は国内事業の方が多い。為替予約も進んでいるので、現在の良品計画は為替の影響をあまり受けない企業(為替変動耐性銘柄)と言えるだろう。強いて言えば24年8月期は円安メリット寄りであり、その影響が収益の見通しに反映されていると思われる。
※追記:決算説明会資料等には円安による海外事業利益の押し上げには言及があったが、国内事業利益の円安による押し下げには言及が無かった。おそらく、為替予約等によって円安に対する備えが進んでいたためと思われる。そうであるならば、24年8月期については、あくまで数字上は円安によるメリットを一方的に享受できていたことになる。
※追記2:131円と言う数字は遠いようであながちあり得ない数字ではない。過去の円高トレンドを読み解くと日米金利差(10年債利回り)の縮小により、1年程度の期間で概ね130円前後までの円高が起きてもおかしくはない。
※追記3:上記の「1%」と言う数字は会社想定の今期の国内事業利益率向上値0.4%を為替の比で単純計算したものである。実際には為替予約が進んでおり、利益率は様々な要因で変動するものと考えられるので、円高によってどの程度恩恵を受けるかは不明の部分が大きい。一般論として、為替予約をどの程度先まで実施しているかによるが、この先円高になった場合多くの商品を海外生産で賄っているので、円高によるメリットは発生するはずである。
2つ目のグローバル販管費増加について考えていく。ちなみにだが減益の要因は筆者の上記の計算だと、為替よりも販管費増加の影響の方が金額的に大きい。
グローバル販管費は前期比で65億円増加見込みである。営業利益550億円を見込む企業としては結構大きい印象である。決算説明会資料にグローバル販管費について「経費が先行」とあるので、あくまで一時的な先行費用増加であれば中長期的には大きな問題ではないと考えられる。販管費増加は開発・生産体制の強化によるものである。先月にカンボジア、インドネシア、インドに生産管理拠点を設立していたが、それもこの一環なのだろうか。もし販管費増加が無ければ、決算の印象は全く違ったものになっていただろう。
【中国事業の重要性増す】
中国国内は398店舗であり国内に次ぐ店舗数である。今期も出店を続ける計画である。
中国単独のデータは無いものの、中国を含めた東アジア事業の利益率はどのセグメントよりも高い。過去を振り返っても概ね国内の2倍弱の営業利益率である。一方で、中国の既存店売り上げは前期比96%にとどまっている。中国事業の伸び悩みは良品計画だけでなくファーストリテイリングも足踏みしており、中国に進出している企業の共通の悩みである。
現在中国経済は低迷しているが、今後底打ちして上昇軌道に乗れば、中国事業の伸び悩みも解消される。今年のGDP成長率は年率+4.7%、来年は年率+4.2%と予想されており、まだまだ底打ち感はない。12日に財政相が大規模な財政出動を示唆したが具体的な規模は不明である。中国政府が打ち出す経済対策に期待感が出れば、中国関連株とも言える良品計画の株価上昇が見込めるだろう。
ただし、中国は日本以上に少子化が進んでいる国であり、日本以上に閉ざされた国である。中国事業をこれ以上強化する必要があるのが、よく考えるべきだろう。
【国内事業は衣服の立て直しが急務】
最後に国内事業の既存店セグメント別売上(前期比)を確認しておこう。
- 衣服100.5%、生活雑貨111.8%、食品105.3%
生活雑貨はリニューアルした化粧品(スキンケア用品)が消費者に受け入れられて好調な着地となった。一方で衣服は現状維持にとどまっている。正確なデータを確認できていないが、体感的には衣服は売り場面積を広めに取っている。衣服の改善は急務ではないか。
無印良品の良さは、商品が価格の割に品質が良く、デザインに無駄がなく程良く洗練されたイメージがあることである。食品と生活雑貨はここ数年の商品開発の成果が出ていると思われる。衣類にはこの良さが生かされていないと感じる。例えば、全身無印良品でコーディネートしたらどうなるだろうか、シルエットや色味がかなりぼやけないだろうか、少なくとも「オシャレだな、洗練されているな」とは思わない(あくまでも主観的な感想ではあるが、、、)。独自色を出そうとしているが、かと言って、品質で他社よりも何か優れているわけではない。
ムジラボについては旗艦店を代官山に出店したり、デザイナーの内製化を進めるなど改善の意図が見られる。
衣服全般に言えるのは、定番商品の品質向上、洗練化が課題である。
あくまでも一個人の感想だが、全体的にデザインが古くなっている印象である。無印良品の素朴さをベースにもう少し都会的でスタイリッシュなデザインでも良いと思うのだが、、、。
※追記4:国内事業は歴史的な円安環境にも関わらず、利益率が向上している。為替予約を実施していたとしても少なからず為替の影響は出ているはずで、現に何度か商品の値上げを実施している(値上げの理由の一つに円安を挙げていた)。商品開発の強化等、地道な企業努力が実を結んだ結果と言えるので、実力がついており今後に期待が持てる。
【まとめ】
国内や中国経済が停滞する中で過去最高益を叩き出した点は素直に良い決算だった。ただ、良品計画は元々PERが20前後と東証の平均よりもやや高めの水準であり、グロース寄りの銘柄である。常に成長期待のプレッシャーに晒され続ける銘柄である。その意味で、来期予想の増収減益に対する市場の目線は厳しいものになるのではないか。為替のこともあり、短期的な株価は上値の重い展開になるだろう。(日経平均株価採用銘柄になっているので、その巻き込みも考えられる)
ただし、決算説明会資料によると来期予想も為替影響除けば実質増益であり、営業利益率低下の主要因は先行する販管費増加である。収益構造や会社の成長にネガティブな変化が生じたわけでは無い。中長期的には過度は心配は不要だろう。
中国経済の底打ちや復調の兆しが出てきたり、日米金利差が拡大し円安が続く展開になれば株価の上昇は見込めるだろう。月別の実績も重要である。
11月15日に3ヵ年ローリングプランの見直しと経営方針が発表されるので要注目である。
※追記5:為替に対する耐性が存在するので、円高メリット株ほどではないが、円高時での有望な投資先の一つになり得るだろう。
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