経済金融

【日本株】トランプ関税発動の衝撃

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米国のトランプ大統領は2日、全ての輸入品に10%の関税を課し、国別に追加関税を課すとした。主要国では日本は24%、中国は34%、EUは20%である。中国は今までの蓄積を含めると54%に達し、中国企業が多く進出している東南アジア諸国も高関税が課せられている。

想像を超える高関税により、世界の株式市場は大混乱、急落に見舞われた。今回は日経平均株価を中心に、今回の相場が今後どの様な経過を辿る可能性が高いのか考えていきたい。

【関税はこのまま維持されるのか】

米国株式市場は急落に見舞われているが、トランプ氏は米国民に対し「耐えるべき」として、意に介していない。SP500も日経平均も年初来で14%近く下落している。

政権第一期目に比べて株価を気にする言動も少なく、トランプ政権は純粋に思想の実現に動いている可能性が高い。第一次政権でも関税発動や関税に関する交渉は行われていたが、程度の問題として、今回は米国内外にとって予想外の水準である。FRBのパウエル議長も予想外としており、サマーズ元財務長官も批判を強めている。少なくとも短期的には、経済的な合理性はあまり考えていないのではないか。

トランプ氏が関税について発表した後、米国企業の業績悪化を懸念して、多くの銘柄の株価が下落した。中国同様に高関税が課された東南アジアに生産拠点や取引先がある企業、ナイキ、アバクロ等の米企業は大きな打撃を受けるだろう。
また、自動車メーカーについても生産の8割を米国内で賄っているフォードであっても、利益の4割を押し下げるとされている。自動車は多くの部品から製造されており、全てを米国内で賄うのは不可能である。経済活動や信用の収縮を懸念して銀行などの金融関係も売り込まれている。中国等で生産拠点を持つアップルの株価も大幅下落している。

先週は日経平均株価も米国市場同様にほぼ全面安となった。当然日本企業も甚大な影響を受けるだろう。筆者としても、この水準の関税発動は全くの予想外である。

筆者は、トランプ政権の政策的な意図は中国対策(覇権争い)とドル覇権の維持(財政赤字の縮小)であるように感じる。

各種報道によると、今回の関税率の決定に関して、実務家のベッセント財務長官やイーロン・マスク氏はほとんど関与していないようだ。決定に関わったのは経済学者のナバロ氏等、少数の側近だったようである。ナバロ氏は対中強硬派でトランプ政権第一期目から政権に関与している人物である。今回中国だけでなく、ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアにも高い関税が課せられているが、これは中国企業の製品に対して確かな打撃を与える意図が見えてくる。また、日本や韓国、台湾もEU以上の関税となったが、いずれもアジアの経済大国で中国と経済的な取引や関わりが多い国々である。トランプ関税の税率の根拠が「貿易赤字÷輸入額」で計算されており、根拠がおかしいと非難の声があるが、対中政策に関して都合が良い計算方法を探し出してきたとも考えられる。

トランプ政権は関税発動の根拠に国際緊急経済権限法(根拠:過去最大規模の貿易赤字)を用いている。米国は財政赤字も貿易赤字も莫大である。ドルが基軸通貨であり、それが維持され続けている根拠には様々な言説があるが、著名投資家のレイ・ダリオ氏は歴史的に財政赤字の拡大がやがて基軸通貨の地位を損なわせ、覇権を終わらせるとしている。トランプ政権は保守政権なので、根底にはレイ・ダリオ氏の様な理論があるのかもしれない。トランプ大統領はBRICSの共通通貨構想を問題視する発言を過去しており、基軸通貨の地位については意識している可能性が高い。
(ただし、レイ・ダリオ氏の理論にも疑問点はある。と言うのも、米国と覇権争いをしていると見なされている中国も財政赤字(債務残高)はGDP比83%に達する。米国の118%よりは低いが、ドイツよりは高く低水準と言えるのかは不明である。ちなみにインドも中国と同水準である。また、国別の対内直接投資は米国が世界最大で2位の中国の倍である。莫大な貿易赤字は旺盛な経済活動の結果とも言えるだろう。より経済活動が活発なエリアに輸出が増えるのは当然である。覇権争いについても、相対的なものであり、人口が多い中国やインドが経済成長すると世界経済の中でプレゼンスが高まるのは当然の帰結である。)

トランプ政権は現時点では市場の反応に対して、意に介していない。政策的な最終目標が達成されるまで、関税は維持される可能性が高いだろう。そして、覇権争いは今に始まった話ではなく、目標が達成されるまでは少々時間を要しそうである。

【関税に関する今後の見通し】

前述の通り、今回の関税の動きは米中覇権争いという大きな流れの一つであり、諸外国は巻き込まれていることを自覚する必要がある。特に日本は地政学的に重要な位置にいる。

日本や世界にとって悔やまれるのは安倍晋三氏がいないことである。4月2日の関税発表の場でもトランプ氏は安倍氏に言及していた。トランプ氏が公の場で安倍氏に言及するのは今回が初めてではない。米国大統領が公の場で外国の故人に何度も言及するのは異例である。恐らくトランプ氏にとって安倍氏に対する友情は本物であり、リスペクトしていたのであろう。もし安倍氏が存命していれば、極端な政策が発表される前に交渉を開始できていたのではないか。

さて、関税に関するシナリオはいくつか考えられる。筆者が考えるのは主に三つである。

一つ目はベッセント財務長官の言うように、関税の価格転嫁は一度きりで、経済に大きな影響は無いシナリオである。前提条件として、諸外国が報復関税を実施しないことと、各企業が今まで通り利益を確保出来るよう関税分を価格転嫁して消費者がそれを受け入れることが必須である(あるいは各国政府の支援や技術革新、効率化によって価格転嫁を抑制する)。既に中国が34%の報復関税を示唆しているので、暗雲が立ちこめている。また、経済指標で影響が判明するには数ヶ月要する可能性がある。これから決算シーズンということもあり、各企業の業績予想はもっと早めに出るはずなので、市場の織り込みが進む可能性は高い。
企業の業績があまり落ち込まないと予想されれば、過度の悲観が解消され、市場は急回復する可能性がある。ただし、前述の通り、各企業とも世界規模のサプライチェーンに頼っており、影響は大きく出そうである。

二つ目は諸外国がトランプ政権と交渉(大幅な譲歩)して、関税を引き下げが行われるシナリオである。関税のメインターゲットが中国であるならば、中国の動きがカギを握るだろう。中国は報復関税を示唆しており、交渉は難航しそうである。
中国以外の国は早めに交渉妥結に至る可能性があるが、対象が世界規模であり、交渉事なので時間がかかる。米国の要求を受け入れるにしても、国内の調整や法整備に時間がかかる為である。また、関税の引き下げ幅も難航する可能性がある。第一次トランプ政権では日米経済対話や日米通商協議が行われたが、合計すると1年以上交渉している。交渉すると言っても、直ぐに結果が出ない可能性が高いことを覚悟する必要がある。
そもそも、関税の目的が中国に対する攻撃と貿易赤字の解消なのであれば、政策の効果が現れるまでは継続する可能性がある。

三つ目は米国内の世論や議会での批判が強まり、早々に撤回するシナリオである。既にUAW(全米自動車労働組合)の幹部が関税の影響に関する不安を口にしている。このシナリオを期待する向きは多いだろうが、前提条件として実際に米国内の経済や雇用が大きく減速する必要がある。批判する根拠が米国の不況なのであれば、各企業(と株価)へのダメージは避けることが出来ないことになる。また、以前の記事でも紹介したが、米国は資産効果が大きい国である。富裕層から一般庶民まで何らかの投資に関わっている状況である。今の所、トランプ政権は株式市場の下落に頓着していないが、世論が株価下落に耐えられなくなった段階で、方針転換や各国との交渉が進む可能性はある。ただし、それでも選挙公約を踏まえて、10%の関税は残すのではないだろうか。また、中国や中国企業の利益と関係が深い国々との交渉には時間がかかる可能性が高い。

上記のシナリオが強弱して、同時進行する可能性もある。いずれにしても、関税が発表されたばかりである。影響はこれから徐々に明らかになるだろう。

【日本株への影響と銘柄選択】

想定を上回る関税発表により、日本経済への影響も懸念される。専門家の多くは日本のGDPへの影響はマイナス0.4〜1%程度と予想し、筆者も素人ながら以前の記事で0.4%程度の影響を予想していた。確かに大きな影響なのは間違いないが、致命傷とまでは言えないだろう(リーマンショック時はGDPのマイナス幅は8%まで膨らんだ)。また、日本は輸出依存度が低い国であり、思ったほど影響が無い可能性がある。

日経平均のPERは13台まで低下し、米国市場と比較しても売られすぎである。また、日本も含め世界的に需要不足が生じるかもしれないが、それはインフレを和らげることになる。確かに自動車産業等の輸出関連を中心に景気が落ち込み、今後の賃上げに影響が出るかもしれないが、内需が落ち込みすぎるとは考えにくい。

とは言え、しばらくは市場は混乱し下落基調が続くかもしれない。各企業の業績見通しが明らかになるのもこれからである。業績予想やEPSが低下すると、現在の株価水準でも妥当(或いは割高)ということも十分に有り得るため、下がったから買うというのは少々危険である。

影響が出そうな業種、影響を受けにくい業種を考えてみる。

  • 輸出・自動車関連(自動車各社、鉄鋼、ゴム、電池、精密機器、半導体、他):言うまでもなく影響を受けるため、ボラディティが高い状況が続く可能性が高い。
  • 金融(大手銀行、地銀等):日銀の利上げ期待の減退によって、利益の期待値が減退する恐れがある。また保有する株式や債権の評価損が心配される。
  • 中国・東南アジア関係:中国経済は回復途上にある。また、例えばベトナムは輸出の対米依存度が高くGDPの30%にも達する。このまま関税が維持された場合は、東南アジア諸国の景気減速につながり、進出する企業に影響を及ぼす恐れがある。生産拠点を持つ企業も注意を要する。
  • ヘルスケア関係(医療関係、製薬業界):ディフェンシブ銘柄の筆頭。需要と利益は安定しているので、比較的株価は下がりにくいと予想できる。また、医療介護関係は賃上げ率が低い業界だが、景気減速局面では人材の補充が進み事業拡大に寄与する可能性がある。
  • 内需関係:インバウンド、陸運、不動産、建設、防衛、国内に売上の強固な事業基盤を持つ企業は影響を受けにくいだろう。また、日銀の利上げ期待が減退するので、小型株もやや浮上する可能性もある。(ただし、成長期待株やグロース株にとっては景気減速懸念との綱引きとなる)

注意点として、関税に対して比較的影響を受けにくい銘柄であっても、日本国内の景気減速が明らかになれば影響を免れることは出来ない。

【まとめ 〜米国の対中政策の本気度〜】

トランプ大統領が発表した国別の関税を見ると、トランプ政権の対中政策の本気度を感じることができる。

また、ベッセント財務長官は関税発表後の株価下落の原因を「株価下落は中国関連AIの台頭によるもの」と発言している。確かに背景の一つかもしれないが、今回の株価下落の直接的原因がそうでないことは誰もが知っている。なぜ聡明な元ソロスファンドマネージャーがその様な発言をするのか、よく考える必要があるだろう。

今回の関税が対中政策や財政赤字縮小等の米国覇権維持政策の一環であるならば、経済的な損得を超えたところに目標があるため、投資家もそのことを意識する必要がある。

いずれにせよ、関税政策の影響や方針が明らかになるのはこれからである。トランプ政権の言動に一喜一憂する日々が続くことだろう。

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青髭
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会社員、個人投資家
日本個別株に投資を続ける個人投資家です。本業が会社員のため限られた時間でしっかり成績を残し、本業に支障がきたさない事を念頭に投資を続けています。 経済、金融、投資に関する適切な情報発信を心掛けていきます。
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