【ドル円・原油】スカイマーク(航空株)の見通しと考えるべき要素
連日、日経平均株価とドル円相場は乱高下を続けており、投資家にとって落ち着かない日々が続いている。4日に米国雇用統計を控え、10月中に衆院選挙実施が予想されており、また10月下旬からは企業決算の時期となる。これらのイベントを消化した後の市場のシナリオを考えて備えておく必要がある。
今回は過去の記事で紹介したスカイマーク(航空株)の見通しを立てるため、ドル円、原油相場等、影響を与える要素について考察していきたい。
【米国雇用統計と米国経済ソフトランディング期待】
4日にいよいよ全世界が注目する米国雇用統計が発表される。筆者は一貫してハードランディングを念頭に置いてきたが、結果によっては今まで市場が期待してきたソフトランディングが現実味を帯びることになる。ただ、仮にソフトランディングを達成した場合、短期的には株価上昇につながるかもしれないが、中長期的に市場に恩恵をもたらすかは不透明だ。本日までに発表された2つ経済統計を確認しておこう。
- JOLTS求人件数(8月):市場予想を上回る804万件と7月からは増加。ほぼコロナ前と同水準である。採用件数、採用率、レイオフ・解雇は7月から減少している。自発的な離職件数と退職率は過去4年間で最低水準となった。
- ISM製造業景気指数(9月):市場予想を下回る47.2と8月から横ばい。景気拡大・縮小の分かれ目となる50を6ヶ月連続で下回っている。雇用は43.9と46から下落した。これにより4ヶ月連続で下落したことになる。
JOLTS求人件数から読み取れるのは、コロナ後の爆発的な求人数増加や企業活動拡大が落ち着き、労働者が転職により条件の良い職場を見つけにくくなっていることである。労働者にとって質の高い求人が減少している可能性がある。この傾向が続けば賃金インフレはさらに落ち着くことになるだろう。ISM製造業景気指数は端的に製造業の景気が悪いことを表している。雇用の減少が続いてるので、4日の雇用統計では製造業の雇用者数減少が見られるかもしれない。雇用の点で考えれば、両指標とも労働市場の緩和を示唆している。
米国雇用統計の市場事前予想は失業率が前月から横ばいの4.2%である。労働市場の緩和が続いているため失業率の大幅な改善が見られない限り、FRBによる連続利下げを後押しすることになるだろう。市場予想に反し悪化した場合は大幅利下げの可能性が高まる。FRBの連続利下げは既に織り込み済みではあるものの、日米金利差が拡大する材料にはならず、ここから大幅な円安になることは考えにくいだろう。
歴史上、サームルール発動後や長短金利の逆イールド解消後に景気悪化を避けられたケースは極めて稀であることを考えれば、このままソフトランディングする可能性は低い。失業率がこのまま悪化せず、GDP等の経済活動が拡大した場合はソフトランディング成功となる。ソフトランディングに成功した場合、利下げと景気拡大の恩恵により短期的には株価の上昇が見込めるだろう。ただし、インフレの沈静化が中途半端に終わる可能性が高くなる。中立金利が想定よりも高く維持されることになるし、極端な場合はスタグフレーションもあり得るだろう。いずれにしてもいつかは景気後退がやってくるため、ソフトランディングが中長期的に米国経済と株式市場に恩恵をもたらすかは微妙である。
筆者はドル安、円高の可能性がまだ高いと考える。一方で、ソフトランディング時は米国の中立金利が高めに設定されるためドル円がさほど下落しないことになる。その場合はシナリオの修正が必要になるかもしれない。
【日銀の利上げと政治イベント】
各種報道によると10月27日投開票の衆院選挙が濃厚である。おそらく選挙期間中は株式市場や景気を冷やす方向になる追加利上げについて、積極的に肯定する発言が政権から出てくる可能性は低いだろう。石破政権が大幅に議席を減らした場合は、来年の参院選への影響を考慮して、政府が日銀に働きかけて追加利上げを停止する可能性はあるだろう。それ以外のシナリオでは、日銀の意思やマイナス金利の状況から年内の追加利上げの可能性が高いと考える。選挙結果次第では、筆者もシナリオを修正する必要が出てくるだろう。
※追記:10月1日に公表された9月分日銀金融政策決定会合の「主な意見」では追加利上げに向けた文言が若干緩和されていた。その後の石破首相の発言「追加利上げするような環境にあると考えていない」も加味すると、日銀の利上げに向けた意思が揺らいでいる可能性もあり注意が必要である。円安が進行する可能性がやや高まったと言える。
【原油価格と中東情勢】
中東では紛争が続いており、沈静化の見通しは立っていない。しかしながら、紛争は以前から続いていたことであり、市場もある程度の織り込みは進んでいる。以下、需要と供給について情報を整理しておこう。
- 地政学的リスク:イスラエルのレバノンでの地上戦が開始され、イスラエルの歯止めがかからない状況。中東情勢の沈静化までは時間を要する可能性が高い。ただし、地上戦開始で原油価格は上昇しているものの限定的であり、市場もある程度織り込んでいたと考えられる。イスラエルとレバノンは産油国では無いので、地上戦自体の影響は限定的と考える。
- 原油消費国の動向:米国経済は今の所堅調。中国経済は減速している。
- 大手商社は供給過剰を予想:大手資源商社トラフィギュラと商品取引大手ガンバーは原油価格の見通しを中国の需要低迷と供給過剰により原油価格は1バレル60-70ドルで推移する見通しを9月のアジア太平洋石油会議で示している。
- サウジアラビアの動向:市場シェア維持のため、100ドルの原油価格目標を撤回し、OPECプラスは予定通り12月に増産するという。
地政学的リスクは全般的にイスラエルの動きに歯止めがかからず、イランの反応は抑制的である。イランの反応から可能性は低いものの、イスラエルとイランの全面戦争に至る場合は市場は大混乱に陥るだろう。全面戦争までは織り込みされているとは考えにくく、その場合の中東エリアへの影響も見通せないためである。全面戦争勃発時は原油価格は急上昇することは避けられないだろう。全面戦争シナリオ以外は原油価格は現在の水準のまま抑制的に推移すると考えて良さそうである。
【まとめ 〜スカイマークへの影響〜】
スカイマークの今期前提はドル円145円、ドバイ原油1バレル80ドルである。ドル円は超円安が落ち着き、想定よりも原油価格が下落しているため、現在の状況が続くのであれば会社予想のEPS71円は堅持できそうだ。そう考えると現在の株価は割安に思えてくる。
大きなリスクは原油価格と為替である。中東を含め世界の地政学的リスクが拡大した場合は航空株には大きなマイナスとなる。為替のリスクも大きい。円高は円高メリット銘柄に大きな恩恵をもたらし、市場の下落局面でも相対的に持ち堪える可能性は高い。ただし、その過程は重要である。米国のソフトランディングが困難となった場合は米国市場の調整が進み、日本市場へも影響が波及する可能性がある。また、円高が進行した場合は日経平均株価の下落により、上値の重い時期が続く可能性が高い。この場合は、決算の結果次第で局面の変化が考えられるだろう。逆に円安と原油高に振れた場合は業績自体に期待が持てなくなるので要注意である。
筆者は円高メリット株として航空株を扱ってきたが、スカイマークは国内線のみのため大手2社に比べて業績を見通しやすい銘柄である。今月中旬以降に航空各社は第二四半期の搭乗実績を公表しているので、その時期になれば個人的な予想も立てていきたい。
※それにしても航空株は地政学的リスク、原油価格、為替等、業績や株価に関わる要素が多く難易度の高い業界・銘柄と思う今日この頃である。単純な円高メリット株では無い事は確かだ。もしかすると、今回挙げた要素に左右されない業界・銘柄の方が現状では素直に上昇しやすいのかもしれない。
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