FRBの政策転換による円高と日本株への影響度合いを考える
ジャクソンホール会議でのFRBパウエル議長講演を終え、9月FOMCでの利下げが確実視されつつある。日銀の意向も踏まえると円高基調が続きそうである。日本株へどの程度影響が有りそうか、個人投資家として情報を整理しておきたい。
【ジャクソンホール会議パウエル議長講演】
日本時間8月23日23時にジャクソンホール会議にてパウエル議長の講演が行われた。
内容としては9月の利下げを示唆したものの、具体的な利下げペースは示さず、データ次第とした。労働市場の悪化が想定以上に進んでおり、1回の利下げペースを0.5%とするために含みを持たせたとする考えや、労働市場の悪化は間違い無いがFOMC前に雇用統計等の重要指標を確認できる為、可能性を残したとする考え等、様々見方があるだろう。
重要なのは講演の中で労働市場の悪化に触れられていることだろう。パウエル議長の見解は現在の失業率の上昇は労働者の増加や求人数の減少が原因で、企業の解雇が原因でないとしている。歴史的に一度悪化し始めた失業率はその後急上昇することがほとんどだが、果たして利下げによって緩和することができるのか。タイミング的にはギリギリといったところだろう。
ちなみに、パウエル議長は以前にコロナ後のインフレは「一時的」との見解を示していた。その後反省に至ったようだが、今回の政策転換に生かされていることを望む。
NY市場はパウエル議長の講演後にNYダウが1.14%上昇、ドル円は1.31%下落して取引を終えた。
【日本株への影響】
米国の家計の余力はほとんどない状況なので、いずれ米国企業の業績にも影響が出始めるはずだ。今後雇用統計が急回復することが考えにくい。FRBは利下げを続け、日銀は利上げを進める可能性が高い。普通に考えれば、このまま円高が進行することになるだろう。
今後の株価を考える上で整理すべきポイントは以下の通りだろう
まず日本側は、
- 日銀は7月の金融政策決定会合の「主な意見」で2025年後半までに政策金利を1%まで引き上げることに言及している。その後の8月23日午前の衆院国会閉会中審査でも植田総裁は追加利上げの方針を変えていない。おそらく、株価や為替に大幅な変動があった場合は控えるだろうが、基本的には利上げ継続の方針だと考えられるだろう。
- 日本の7月コアCPIは+2.7%だったが、コアコアCPIは+1.9%と2%を下回った。このまま利上げが継続した場合個人消費が抑えられ、CPIの下落することで日銀が考えるほどの利上げはできない可能性がある。
- 日本の実質賃金は7月に賞与の影響でプラスになり、春闘賃上げの影響と政府のエネルギー補助金、円安是正の影響から秋以降プラス転化する可能性がある。
- 日本の家計は健全。
そして米国側は、
- FRB議長と理事が相次いで9月の利下げに言及しており、規定路線となっている。
- 米国雇用統計において失業率の上昇が続いている。原因は労働者の増加と求人数の減少であり、企業の本格的な解雇は始まっていない。
- 米国家計の余剰貯蓄は枯渇しており、カードローン延滞率が上昇しており、家計に余裕が無く個人消費に悪影響を与えている状況。利下げによって一服したとしても、依然として高金利であり家計の回復に時間がかかる可能性が高い。つまり、継続的な利下げが考えられる。
以上の日米の事情から、円高は進行する可能性が高そうだ。円高が進むと日経平均は下落する傾向があるので注意が必要だろう。また、歴史的に景気後退局面では米国株は少なからず下落してきた。日経平均への影響も懸念される。
ただ、以下の点も考慮する必要がある。
- 利下げは、一般的に株価にとってはプラス。
- 米国経済の減速は労働市場の悪化が公に意識された段階で、ある程度市場に織り込まれている可能性がある。(特に近年はインターネットやSNSで容易に情報を入手できるので、思いの外織り込みが進んでいる可能性がある。)
- 日本は利上げしたものの、(今後利上げを継続したとしても)欧米諸国に比べれば緩和的な水準である。
- サームルールのサーム氏は今月のブルームバーグの記事で米国は景気後退入りしていないが利下げが必要な状況であると言及しており、パウエル議長は失業率の上昇は企業による解雇が原因ではないとした。つまり、景気は減速しているのの、持ち堪えており利下げによって緩和可能な状況と言えるかもしれない。
その為、実際に景気後退となったとしても歴史で繰り返された時のように株価の大幅調整とはならない可能性もある。ただし、街に失業者が溢れ、名だたる企業が倒産する等の大不況となれば話は別である。
【まとめ】
個人投資家にとって非常に難しい局面が続くことになる。来月の米国雇用統計とFOMCが山場となるだろう。
米国は労働市場の悪化が織り込まれている場合、利下げ期待と企業業績の綱引きとなりそうだ。日経平均は円高によって上値の重い展開が続きそうであり、個別銘柄の選別が進むかもしれない。
中央銀行の意向を考えると、多少の上下はあったとしても円高基調は継続しそうである。その為、円安によって恩恵を享受してきた企業への投資は要注意だ。逆に円高メリット株にはチャンス到来である。