経済金融

【ドル円・日本株】円安の不思議

yuta8068@gmail.com

FRBは12月10日のFOMCで0.25%の利下げを決定した。日銀は12月19日予定の金融政策決定会合で0.25%の利上げを決定するとの報道が各所から出ている。

日米の中央銀行が政策金利について同時期に真逆の決定を下す事になるのは稀である。日米金利差は縮小方向にある。市場はこれらの動きを織り込んでいるが、為替は依然155円台と歴史的に見て円安水準である。

2022年以降円安が進んでおり、多くのエコノミスト等によりその原因が様々考察されてきており、原因が解消されつつあるにも関わらず円安である。

為替水準は多くの企業の業績に影響を与え、結果的に日経平均株価に多大は影響を及ぼす。今回はこの不思議な事態の原因と今後のドル円の方向性について考えていきたい。

【日米金利差について】

2023年後半から日米金利差は縮小方向に向かっている。2024年9月から米国は利下げサイクルが始まった。一方で日銀は2024年にマイナス金利を解除し利上げサイクルに入った。2024年から日米の双方向から日米金利差縮小の動きが出てきている。

しかしながら、ドル円は2024年以降、140円〜150円台後半を行き来しており、直近は155円台まで上昇している。現在の日米金利差水準は既に2022年後半まで縮小してきており、本来であれば120円〜130円になっているべきである。

実際、ドル円は2024年まで日米金利差と動きを同じくして上昇している。2024年以降はドル円と日米金利差に乖離が出て、拡大するようになった。

現在のドル円の値がミスプライスの可能性があるが、年余に渡り乖離が見られるので他の要因も考えておくべきだろう。

【貿易赤字について】

歴史的な円安が生じて以降、一部のエコノミストから貿易赤字が昨今の円安の原因と語られることがあった。しかし、2022年をピークに日本の貿易赤字は縮小を続けている。一方で円安は解消されるどころか高止まりしている状況なので、はっきり言って説得力に欠ける言説だろう。ちなみに貿易赤字縮小に伴い、日本の経常黒字は過去最大レベルまで拡大している。

【マイナス金利について】

現在の日本は約2.5%程の実質金利マイナスである。実質金利がマイナスなことは、日銀が「主な意見」で何度も言及しており中立金利まで利上げすることの根拠の一つとなっている。実質金利マイナスが円安の原因と語られることも多い。

ただし、これも疑問がある。というのも円安が加速し始めた2022年は日本の実質金利はプラスであり、これは他の主要国に比較しても大きなものであった。現在の実質金利も他の主要国に比較して大幅に乖離があるわけではない。

【政策金利上昇の度合いと家計、日経平均株価】

一度主要国の物価と政策金利を確認しおく。

  • 日本:CPI2.9%、政策金利0.75%(予想)
  • 米国:CPI3.0%、政策金利3.5〜3.75%
  • EU:CPI2.2%、政策金利2.15%
  • 英国:CPI3.6%、政策金利4.0%

上記を考えるとやはり主要国の中で日本は物価上昇に対して利上げの度合いが鈍いと言えるだろう。マイナスの実質金利と相まって、円安を助長していると言えるかもしれない。

10月毎月勤労統計では10ヶ月連続で実質賃金がマイナスになっており、インフレ抑制は重要である。(来年の賃上げでようやく解消されるかもしれないが、、)

利上げをすると預金に対する利払いが増えるので家計に対する負担はそれほど大きくないとし、むしろ家計全体ではプラスとする言説が多い(大手金融機関の調査部等)。
ただし、利息の恩恵は金融資産を多く持っている層に限定されるのであり、金融広報中央委員会によると令和5年の日本国民(世帯)の金融資産保有額の中央値は330万円に過ぎない。特に住宅ローン(7割〜8割が変動金利)等を抱えている層は負債の方が大きいので、利上げによるネガティブな影響を受けやすい。昨今のインフレで家や車など、多くのものが値上がりしている現状では尚更である。

日銀が従来1%以上としていた中立金利を引き上げるとの報道も出始めており、今後も継続的な利上げが行われるかもしれない。それでも上記の家計の現状や高市政権との連携の中でスピードは穏やかなものに留まるだろう。

また、上記の政策金利を比較すると明らかに日本は緩和的である。今年の日経平均株価指数の上昇度合いは他の先進国に対してアウトパフォームしている。この状況も助長している側面はあるだろう。上昇したとは言え、PERはまだ米国等に比べれば低く、企業の収益向上が株価適正化に寄与しており、まだ上昇の余地はある(つまりまだ割安とも言える状況)。
比較的緩和的な日本の株式市場が人気を集めるのであれば、相対的に債券市場や通貨は不人気になり、長期金利上昇しつつも円安が助長される事になるだろう。

最後に、主要国の今後の政策金利政策の方向性を確認しておこう。

  • 日本:12月の利上げが確実視。日銀は中立金利の認識を引き上げて2026年も利上げを継続する可能性が高い。それでも国内経済や政権への配慮から穏やかなペースに留まり、実質金利のマイナス解消までの急激な利上げの可能性はほとんどないだろう。
  • 米国:12月に利下げを実施。3会合連続の利下げとなったが、今回は利下げ反対の理事が3名おり来年の利下げペースは鈍化が予想される。実際、CPIは3%と高止まりしており、経済指標も堅調である。
  • EU:3会合連続で金利据え置き。既に利下げサイクルは終了した可能性が高い。

現在の見通しだと、各国ともに今後の金融政策に大きな変動な無い可能性が高い。これも現在の為替水準が維持されている要因かもしれない。

【高市政権の経済財政政策】

高市政権は責任ある積極財政のもと、積極財政を進める構えである。
また、一般的に金融引き締めは経済活動にマイナスになる。上記の家計への影響に記載した通り、例え国際的に比較的緩和的な金融環境であっても、金利上昇は国内経済には負の影響をもたらす。高市政権は経済成長を重視しており、利上げスピードには気を配っている事だろう。
高市政権は何度も日銀との連携に言及しており、日銀としては政権への配慮から利上げのペースを穏やかにせざるを得ないだろう。

【まとめ】

為替市場の9割以上は投機と言われており、実需は1割程度に過ぎない。結局のところ、為替が思惑で動くのであれば将来を予想することは不可能だろう。

それでも現在の日本や諸外国の経済金融、政治の状況を考慮するとある程度の方向性は見えてくる。

端的に言えば堅調な米国経済と米国株式市場、そして現在の日本の国内経済や財政金融政策の継続性に疑義が生じなければ、現在の為替水準は維持される可能性が高いかもしれない。逆に言えば、疑義が生じる事態になれば円高に進みやすい環境は整いつつあることに注意は必要である。

個人的には、為替は別にして、経済や株式市場に影響が出ない範囲内で日銀の利上げ姿勢には賛成である。理由は将来的な利下げ余地を作れるからである。

円安の期間が長くなり、固定化される可能性があるのならば、それに応じて対策を講じていく必要があるだろう。今後も注視していきたい。

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青髭
青髭
会社員、個人投資家
日本個別株に投資を続ける個人投資家です。本業が会社員のため限られた時間でしっかり成績を残し、本業に支障がきたさない事を念頭に投資を続けています。 経済、金融、投資に関する適切な情報発信を心掛けていきます。
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