【ドル円・日本株】円高と円安の分かれ道
8月21日から毎年恒例のジャクソンホール会議が米国ワイオミング州で開催され、22日にはFRBのパウエル議長の講演を予定している。
例年、ジャクソンホール会議でのFRB議長講演は注目を集めており、講演での発言がその後のFRBの金融政策の方向性を示すことから、大変重要な行事となっている。
特に今年はFRBが利下げサイクルを停止している中で、パウエル議長がどの様な発言をするのかに注目が集まる。
今回は事前の情勢を踏まえ、今後のドル円や日本株の動向を考えていきたい。
【利下げへの市場の織り込み】
7月雇用統計とPPIの結果、市場は当初織り込んでいた0.5%の大幅な利下げからやや後退し、0.25%の利下げを9月実施確率を80%織り込んでいる。
トランプ関税発動後、CPIは思いの外伸長しなかったが、7月のPPIは市場予想を上回り今後のインフレ懸念が発生している。
市場はジャクソンホール会議でのパウエル氏によるややハト派的な発言を織り込んでいる状況である。予想に反してタカ派的な発言をすると、一気にドル高に傾く可能性があり、注意を要する。或いは、一部その様なタカ派的発言を警戒している状況かもしれない。
【トランプ政権の思惑】
FRBが大幅な利下げを実施するかは不透明である。昨年に利下げサイクルを開始した状況とは異なるからである。
7月雇用統計で雇用者数が大幅に減少し、大幅な下方修正を伴うものだった。だが、FRBが重要視する失業率は4.2%であり、PCEも安定的で更なる下落の兆候はない。
FRBの独立性は保たれており、来年1月までの新理事がハト派だったとしても、普通に考えれば大幅な利下げは考えにくい。
ここで考えてみるのが、トランプ政権の思惑である。
8月13日にベッセント財務長官が現在よりも1.5%の利下げと日銀の利上げについて言及した。ベッセント氏がここまで具体的に踏み込んだ発言をするのは珍しい。特に日銀に対しる発言は一線を超えていると言える。
パウエル議長は、FRB独立性の観点と直前の経済データから、利下げに肯定的な発言を積極的にするとは考えにくいが、だからと言ってトランプ政権の意向を完全に無視した発言をするとも考えにくい。おそらく利下げをある程度容認しつつも、インフレに対する懸念も残すようなバランスを取った発言になる可能性が高いのではないか。
上記の発言からは日米の実質金利を根拠に、円安を是正し貿易赤字を解消したい、トランプ政権の思惑を読み取ることができる。
トランプ関税等、トランプ政権のこれまでの言動から貿易赤字解消に対する決意は固いと見るべきである。
FRB新議長と空席の理事の人選はトランプ政権が決めるため、おそらく今後、FRBはハト派に転換する可能性が高いだろう。
ベッセント氏は今年の2月以降、日米の問題の俎上に為替問題を載せてきた。日本側は日銀や政府の独立性の観点からこれを否定しているが、日銀に対するベッセント氏の発言からはそうは思えない。
以前、ベッセント氏は日米関税交渉の障壁は日本の参院選と述べ、実際に参院選後に妥結した。交渉妥結後も自動車関税の引き下げなど不透明な部分が多く残り、おそらく日銀による利上げも交渉材料の一つになっているのではないか。今までの経緯を考えるとそれが自然だろう。
実際、日本は主要国の中で唯一、大幅なマイナス金利が続いている。日銀は「主な意見」で昨年からマイナス金利解消について言及しており、元々日米で追加利上げについて大きな齟齬があるわけではない。
日本の政治日程を考えると年内の10月に追加利上げがあってもおかしくは無いだろう。
【まとめ 〜円高か円安か〜】
ジャクソンホール会議を終えた後、日米の政策金利決定会合を控えており、円高か円安に大きく振れやすく注意を要する状況である。
ただし、大きな流れが日米金利差縮小を伴う円高方向なのは間違い無いだろう。その場合、日経平均株価は円高による下落圧力と、米国の金融緩和による上昇圧力との綱引きになってくる。
今後も為替や株価動向を注意深く観察していきたい。