【日本株・原油価格】航空株と地政学的リスクについて
6月13日にイスラエル軍はイランへ奇襲攻撃を実施した。イランは報復攻撃としてイスラエルの事実上の首都であるテルアビブにミサイル攻撃を実施した。
6月15日にはアメリカとイランの核開発協議が中止したとの報道が出ている。
中東情勢の地政学的リスクが悪化し、原油価格は大幅上昇している。今回は中東情勢と原油価格、原油安メリット銘柄である航空株への影響を考えていきたい。
尚、筆者はあくまで日本と航空株への影響を分析し投資判断を考える立場であり、イランやイスラエル、その他中等関係に対する政治的な思想は中立である。
【イスラエルのイランへの攻撃と今後の見通しについて】
イスラエルは今回、イランの軍事施設、核関連施設、天然ガス関連施設、軍や核開発関係の重要人物を攻撃し成功させている。イランもテルアビブにミサイル攻撃を実施している。
イスラエル、イランはお互いに攻撃し合う関係だったが、今回の事態は今までと一線を画す、重大事案である。
ネタニヤフ首相の発言はイランの体制転換を目標とする意図が感じ取れるので、もしイスラエルの攻撃の真意がそうであれば、今後も紛争が長引く可能性が高いだろう。
軍事力は航空戦力やアメリカの支援を考えるとイスラエルが有利である。一方で、人口や兵士の数ではイランが上回っており、地上戦力をイランに送り込んで体制転換することは現実的ではないだろう。
イスラエル、イランは国境を接していないので泥沼化することは考えにくい。また、今回のイスラエルの攻撃でイランの核関連施設に致命的な打撃を与えるには至っていない。イランに打撃を与えるためにイスラエル側の攻撃が今後さらに激化することが予想できるが、イスラエルが望む戦果を得ることが出来るかは不透明である。イランとしても、戦力の差は明らかな為、どこかで停戦したはずである。長期化するものの、いずれは収束に向かうと考えるのが自然だろう。
ただし、仮にイスラエル側が本当にイランの体制転換までを考えており、目的の達成まで戦う覚悟なのであれば、非常に長期化する可能性もある。と言うのも、イスラエルの一連の動きは全て2023年に発生したハマスの奇襲攻撃が契機になっており、イスラエルが自国防衛の観点から根源をイランの政治体制だと認識していた場合、これまでのイスラエルの言動から直ぐに目的達成を諦めるとは考えにくい為である。アメリカがイスラエル寄りのトランプ政権なのも後押ししている。
イランは報復攻撃を実施しているが、ミサイル攻撃でイスラエルを壊滅させることは難しい。今までもイスラエル側からの攻撃に対しては、常に抑制的に対応してきた。戦力差を考えると、外交交渉したいのが本音だろう。
【原油価格について】
トランプ関税発動やOPECプラスの増産によって、下落傾向であった原油価格は1バレル70ドル台を回復しており、急上昇している。
イランがホルムズ海峡を封鎖した場合1バレル100ドルを超えるとの言説もある。
上記の通り、紛争が長期化する可能性があり、しばらくは現在の水準以上が続く可能性が高いだろう。ただし、あくまで一時的なものであり、紛争が落ち着けば元の価格帯に戻ることだろう。
また、イスラエルは今回の攻撃でイランの石油生産施設を直接攻撃していない。石油生産施設への攻撃回避は原油価格高騰を嫌うトランプ政権への配慮だろう。
イスラエルが石油関連施設等、イランへの攻撃をこれ以上激化しない場合、徐々に原油価格の高騰は沈静化していく可能性が高いだろう。
今回の攻撃を受けてもゴールドマンサックスは今年の原油価格が1バレル50ドル台まで低下するとの予想を崩していない。中東の地政学的リスクは折り込み済みとのことである。果たして、どうなるだろうか。
【航空株への影響について】
今期の業績予想について、航空各社のドバイ原油価格の前提は以下の通りである。
- ANA:1バレル75ドル
- JAL:1バレル75ドル
- スカイマーク:1バレル75ドル
各社ともに1バレル75ドルを前提にしている。現在既にドバイ原油は1バレル74ドルまで上昇している。原油価格の高騰が現在が最大値と考えるかどうかで投資判断は分かれてくるだろう。
今回のイスラエルによる攻撃を受けてようやく、業績の前提水準である。ここから紛争が激化しない限り、航空各社への影響は軽微だと考えられる。
また、中長期の目線ではあくまで今回の紛争は一時的である。
【まとめ 〜常に地政学リスクが燻る〜】
ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以来、イスラエルは一貫して敵対勢力の打倒を目指して行動。最終目標はイランの打倒なのは不変だろう。その為、イスラエルが目的達成と認識するまでは当面、中東では地政学的リスクが高い状況が続くだろう。
航空株等、原油安メリット株に投資する場合は常にそのリスクを念頭に置く必要があるだろう。また、原油高が続いた場合、日本の貿易赤字が拡大することになる。これは円安要因に寄与するので、注意が必要である。
しばらく中東情勢の混乱は続きそうである。リスクを避けるなら、原油や為替の影響を受けにくい銘柄へ投資することも一考である。
※6月24日追記
トランプ大統領がイスラエルとイランの停戦合意を発表した。
その後市場は、急激に円高、原油安、株高に振れている。
今後、イスラエル、イランの双方が攻撃をしない限り和平により、戦時というノイズが消えこの傾向が続くだろう。中東で紛争が発生する前は株高、原油安、円高傾向だった為である。