【日本株】台湾問題における日中対立と株式への影響について
11月7日の予算委員会で高市首相が台湾を巡る状況について「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と発言。高市政権は今までの政府見解を踏襲したものと説明しているが、習近平政権は反発を強め発言の撤回を求めている。高市政権は発言撤回を拒否し、日中の主張は平行線を辿っている。
中国側は日本への渡航の自粛や水産物輸入停止等の対抗処置、外交官らの日本への威圧的な言動を繰り返している。結果、インバウンド関連銘柄を中心に株式市場にも若干の影響を与えている。
今回は中国側の対応と今後の株式への影響を考えていきたい。
【長期化が予想されるものの、日中双方が出口を探している状況】
南アフリカでのG20でも日中首脳の接触は無く、状況の長期化が予想される。一方で日中双方が出口を探しており、中国側もこれ以上過激な経済圧力を実行しにくいと思われる。
- 中国経済の減速:中国国家統計局によると1〜9月の中国の実質GDP成長率は5.2%と政府目標を上回ったが、第3四半期では4.8%と減速しており、投資も減速している。
- 若年層の高い失業率(中国):依然若年層の失業率は直近の公式発表でも17%を超えており、2023年の北京大学副教授による試算だと当時の公式発表は18%だったが実際には40%を超える状況だと言う。
- 日本の対中直接投資:日本企業による対中直接投資は2024年は前年比46%減少の21億ドルだった。主要国、地域の中で7位に位置しており、主要国の中では米国、韓国に次ぐ3位である。
- 日本のレアアース依存:日本は中国にレアアースの輸入の7割を依存している。
- 日本のインバウンドへの影響:2025年10月の中国の訪日外国人数は71万人となっており、国別で第2位となっている。野村総研の木内氏によると、渡航自粛によるGDPへの影響は年率0.36%程度試算できると言う。
今後の中国側の一手としてレアアースの禁輸が考えられる。そうなれば、自動車等幅広い銘柄に大きな影響が及ぶだろう。日本はコロナ禍以降、中国への投資を年々減らしており、今回の中国による経済圧力は大きなリスクとして認識されている。
水産物の輸入停止等は2ヶ月前まで実施されており、大きな影響は無い話だが、かつての実施当初は大きな懸念や影響があった。その後、日本の水産業界は中国以外に販路を開拓し広げている。
インバウンドも短期的な影響は大きいものの、前回渡航自粛が生じた2012年〜2013年頃と比較しても中国以外の訪日観光客も増加している。欧米に影響力のある英国の「ロードスターズ・アンソロジー」が来年2月に金沢のガイド本を出版する等、観光の裾野は今後も拡大しそうである。中長期的には1カ国の影響でインバウンド自体が大きく減速するとは考えにくい。
中国国営通信社は21日に「日本はすでに代償を支払った」とする論評記事を発表した。日本は18日に中国へ外務省局長を派遣している。日中は経済的結びつきが強く、中国は日本企業がさらに対中投資を控え、中国との貿易や投資をリスクと捉えることを避けたい意向を感じ取れる。
国営通信社が独断で記事を発信するはずが無く、インバウンドにしても、水産物にしても日本経済に深刻な影響を与えることは無い状態で手打ちにしたいのではないか。仮にレアアース等を持ち出して大きな打撃を与えた場合の反動(日本企業による中国忌避)を考えている可能性が高い。
ただし、状況の長期化が考えられる現状から、リスクは考えておくべきだろう。
【中国の経済圧力によるリスクが考えられる銘柄】
今回の件が収束した後も常に中国によるリスクは考えておくべきだろう。
ただし、影響は年単位になったとしても一過性であり、影響が軽微になることが分かれば株価はリバウンドしやすいことに留意が必要である。また、直接的な影響を避けたとしても、主要取引先が中国や中国企業とビジネスしている可能性は大いにあり、全ての影響を回避することは困難である。
- インバウンド関連銘柄:国別の訪日外国人数では中国が常に1位か2位であり、存在感が大きい。ホテル業界等直接影響のある業界は今後も警戒が必要だろう。
- 対中輸出製品:自動車や電子機器等。
- レアアース関連:自動車、半導体、電子機器等。
【まとめ】
今回の台湾有事の件は改めて中国によるリスクを考えさせられるきっかけとなった。日本としては首相の答弁撤回は極めて困難であり、説明を尽くし中国側が理解するのを待つしか無いだろう。
個人投資家としては一部のセクターに依存することの危険性の確認やポートフォリオ見直しの良い機会となったことは確かである。
今後も事態の推移を見守りたい。
