【米国大統領選挙】トランプラリー再現の可能性について
いよいよ11月5日に米国大統領選挙及び米国上下院選挙(一部改選)が行われる。
世界最大の経済大国である米国の今後を占う選挙である為、日本でも注目度が高い。特にドル円相場では、このところ米国側の金利上昇による日米金利差拡大により円安が再燃しており、個人投資家としてある程度想定は必要だろう。
米国では議会の力が強く、現在の様に大統領と上下院の多数党が異なると予算案や法案が通過しなくなり、良くも悪くも政治の停滞が発生する。
現在、ややトリプルレッド(大統領、上院、下院全てが共和党が制する)のシナリオになる可能性が高まってきている。その場合、より市場がより極端に振れることが考えられる。今回はトリプルレッド時に備えるため、トランプ氏の政策やそれによる市場への影響を考えていきたい。
【トリプルレッドの可能性やや高まる】
米国大統領選挙は各州ごとの投票の結果(獲得した選挙人の人数)によって決まる。その為、仮に総得票数で上回ったとしても制する事ができた州の数が少なければ当選することはできない。
多くの州で共和党と民主党のどちらが勝利するかはほとんど決まっているが、一部の州では選挙毎に勝利する政党が異なっており、これらのいわゆる接戦州の結果が当選者を事実上決定付けている。
現時点でリアルクリアポリティクスによると、やや優勢の接戦州の数はトランプ氏がハリス氏を上回っている。ただ、選挙人の人数から最重要の接戦州と目されるペンシルベニア州はややトランプ氏が優勢だが、大接戦でありハリス氏が勝利する可能性もある。とはいえ、現在の世論調査のまま投票が実施されればトランプ氏が勝利する可能性が高い。
上下院選挙について、こちらは上院は一部の選挙区が、下院は全選挙区が改選となる。上院は改選となる選挙区の関係(現職が民主党の選挙区で改選が多い)で共和党が多数党となる可能性が高い。下院は既に共和党が多数党だが、リアルクリアポリティクスの情報だとこのまま共和党が勝利する可能性が高い。
このまま行けば、トリプルレッドになる可能性が高い。現在の捻れが解消されることになるので、共和党の政策がより反映されやすくなるだろう。
※ただし、上下院で勝利するとしても僅差が予想され、米国の国会議員は日本以上に独立性が高く、党内の穏健派にも配慮する関係上さほど極端な政策は実行されないとの言説もある。
【トランプラリーの再現も影響は限定的か】
前回トランプ氏が大統領に就任した際、事前の予想に反して株式市場は好意的に反応し、その後しばらく世界的に株式は上昇、為替は円安ドル高が進行した。いわゆるトランプラリーが発生した。
トランプラリー発生の要因は大きく2つあったと考えられる。減税や財政出動等の政策への期待と市場がクリントン氏の当選を織り込んでいたことである。トランプ氏の当選は当時の大手メディアの世論調査や報道で考えても予想外の出来事であった。
筆者は上記2つの要因の内、特に後者の理由から今回はトランプラリーは発生したとしても長続きしない、穏やかなものになると考える。経済政策の期待感と市場の織り込みの2つの要因からそれぞれ理由を考えてみる。
1つ目の経済政策への期待だが、今回は影響は限定的だろう。
トランプ氏や共和党の経済政策は、以前の記事でも触れたが主に、法人減税の継続(民主党は増税を主張)と更なる減税、中国等への関税強化、化石燃料の優遇である。また、財政出動やFRBの金融政策へ介入(おそらく利下げ方向への圧力)することも考えられる。トリプルレッド時はこれらの政策の実行力が高まることになる。
法人税は既に「最大35%」から一律21%まで減税されており、下げ幅は限られるだろう。中国等への関税強化も影響の無い国を経由して輸入することで効果は限られる(ただし、全ての国の関税を一律で上げる等した場合は少なからず影響は出るだろう)。
化石燃料の優遇も規制緩和等で推進することが考えられるが、バイデン政権下での開発規制強化にも関わらず米国の産油量は増加しており、2025年は過去最大になる見通しである。トランプ氏が当選した場合は産油量増加の流れが加速しそうであるが、上げ幅は限られるのではないか。
関税強化の実効性が不透明な場合、それ以外の政策については大きな新鮮味はなく影響も限定的である。ただし、減税の継続等は市場に安心感を与える可能性が高い。
2つ目の市場の織り込みについてだが、トランプラリーの再現を考える上で最も重要な要素ではないだろうか。と言うのも、トランプ氏が大統領に就任した2016年以降米国では世論調査の精度を上げる為に様々な工夫がされるようになり、またトランプ支持者も堂々と支持を表明するようになった。上述の通りリアルクリアポリティクスによると、わずかだがトランプ氏が当選する確率が高そうである。これらは公開情報なので、当然市場関係者も目にすることになる。
つまり、市場は既にトランプ氏当選とトリプルレッドをある程度織り込んでおり、それが現在の好調な米国株式市場、円安ドル高基調に反映されているのではないか。現在の市場は株高、円安ドル高、原油安である。上述の政策の織り込みが進んでいると言えなくもない。
※いずれにせよ、大接戦である。トランプ氏が勝利した場合でも上下院のいずれかを民主党が制した場合はより上記の経済政策は実行されにくくなるだろう。また、ハリス氏が当選した場合は増税への警戒感から株価は下落する可能性がある。現在はハリス氏当選の方がややサプライズ感があり、その場合は株安、円高ドル安が進行する可能性がある。
【まとめ】
トランプ氏が当選した場合、株高、円安ドル高で市場が反応する可能性は高い。それは、予想される政策的にも正しい反応である。一方で、トランプ氏の当選に意外性は無くある程度市場の織り込みが進んでいることから、影響は限定的と考えられ、本当にトランプラリーが再現するか注意深く観察する必要があるだろう。そして、それは上下院の状況にも左右される。
トランプラリーの威力が前回ほどではないのであれば、株式市場やドル円の行方は短期的には雇用統計等の各種経済指標、インフレ再燃リスク、日米金利差の重要度が増し、より左右されることになる。大統領選後は市場が一方向に進むことが多いが果たして今回はどうなるだろうか。
※11月7日追記
トランプ氏が当選確実となった。上院、下院でもこのまま行けば共和党が過半数を超える見通しである。
今のところ従前の予想通り株高、円安ドル高で進んでいる。この傾向がこのまま継続するのか注意深く確認する必要があるだろう。
ただ、考えなければならないのはトランプ氏は過去の言動からドル安志向なことである。政策的にインフレに傾く為利下げが出来ずドル高が継続する言説があり、それはその通りである。一方で、日本の過去の円安と円高の歴史を振り返れば、通貨高対策は通貨安対策よりずっと簡単である。例えば、以下方法がある。
- FRBによる利下げ(インフレ再燃では困難)
- 為替介入
日本は金融政策と為替介入で円安と円高に向き合ってきた。トランプ氏が本気でドル高に対し懸念しているのであれば、同様の対応を実施する可能性はある。また、関税についても、インフレになるとは限らない。関税を掛けられた国はそれでも世界最大の経済大国で先進国の中で景気が良い米国に物を売ろうとするだろうし、関税で物が売れなくなった国(中でも輸出依存度が高い国)では景気減速によりデフレ傾向になることが考えられる。生産国の物価が下がるのであれば、世界的に物価が下がるだろう。関税により米国への直接投資が増え、生産量が増えるのであれば需給は安定することになる(ただし、労働市場は引き締まる可能性がある)。
米国企業と競合しない品目や米国企業にとって必要な品目は除外される等、バランスが取られる可能性もある。
そもそも、関税についてはその影響が過大評価されていることも考えられる。
化石燃料優遇政策も想定され、こちらは物価引き下げ方向に進む。原油価格は近ごろ下落傾向にあるが、依然としてコロナ前より高い水準である。まだ値下げ幅は存在するだろう。
為替相場はほとんどが投機であり、思惑で動くことも多い。トランプ政権の姿勢によって大きく動く展開が考えられる。
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