【ドル円・クロス円】長期円高トレンド形成の可能性について
本年7月に160円台を超えていたドル円相場は現在146円台で推移している。わずか1ヶ月あまりで160円台から140円台と急激な円高が進んだ。クロス円についても主要国通貨、新興国通貨に対し軒並み円高が進んだ1ヶ月であった。
今回はドル円の長期トレンドについてテクニカルとファンダメンタルの双方向から円高トレンドについて考えていきたい。
【テクニカル的には円高トレンド形成を示唆】
ドル円週足チャートを眺めると8月2日に52週移動平均線を割り込みそのまま4週間連続で下回っている。2022年以降の円安トレンドについて52週移動平均線を割り込むのは今回で3度目である。9月中旬以降も連続して割り込み続ける場合は最長となる。
この場合ははっきりとトレンド転換を示唆しているといるだろう。52週移動平均線は150.7円なので(来週以降ハードルが下がってくるものの)現在の値との乖離を考えれば既にトレンド転換されているとしても決しておかしくはないだろう。
後述するが、重要なポイントとして、2022年以降日本以外の主要国は利上げサイクルに入っており逆に日本のみが金融緩和を継続していたが、現在はそれらが逆方向に進んでいる事が挙げられる。過去2回の52週移動平均線割り込みは長期上昇トレンドの中での一時的な反落だったのだが、今回は環境的にドル円を下支えする材料が少ないと言える。
※今回は長期トレンドの考察なので週足チャート、52週移動平均線を活用。
【ファンダメンタル的には円高を示唆】
前回の記事にて考察したが、日本は利上げサイクルに突入している。利上げ自体、実に17年ぶりである。一方のFRBを始めとする欧米主要国は利下げサイクル入りしている。日本と欧米主要国の状況を整理しておく。
- 日銀:7月から利上げ開始。日銀は8月8日公表の「主な意見」やその後の総裁、副総裁の発言から今後の追加利上げを示唆。
- FRB:ジャクソンホール会議でパウエル議長が9月での利下げ開始を示唆。
- ECB:6月に利下げを実施。8月のユーロ圏CPIが低水準であったため、9月の追加利下げ観測が強まる。
- カナダ銀行:今年2回利下げを実施。9月の追加利下げ観測が強まっている。
- イングランド銀行:8月に利下げを実施。
- 中国人民銀行:7月に追加利下げを実施。
上記を見ると日本の状況が際立っている事が確認できる。日本と各国の金利差は徐々に縮まっていく可能性が高い。金利政策は経済の過熱感を左右するので、各国の経済状況を反映していると言えるだろう。
昨今、円安原因の一つとして注目を集めている貿易収支について、2022年に過去最大の赤字となっていたが2023年以降は赤字幅が縮小傾向である。2024年上半期の貿易収支は赤字ではあるものの、2023年上半期比で53%赤字幅が縮小している。(尚、赤字幅縮小にも関わらず本年7月にドル円160円台になる等円安が進んでいたことは興味深い)。仮に貿易赤字が円安要因であるならば、要因の一つは既に縮小していることになる。
日米マネタリーベース比(ソロスチャート)とドル円の乖離で考えると、ドル円160円台の時に比べると乖離が縮小しつつあるが、それでも現在のドル円水準は未だ過剰な円安と言えるだろう。
以上、金利差と中央銀行の方向性、日本の貿易収支、通貨供給量で考えると全てが今後の円高傾向を示唆している。
ただし、基本的には円高方向と考えて良さそうだが、後述する9月6日の米国雇用統計によっては修正を迫られることになるので要注意だ。
【9月第1週目の米国経済指標】
9月第1週目は米国経済指標が目白押しである。特に雇用統計に最大の注目が集まるだろう。9月のFRB利下げは既定路線化しているが、利下げ幅を占うことになる。
雇用統計以外も米国の経済状況を確認する上で重要だが、いずれも雇用統計前の発表なので短期間で市場に消化される可能性が高い。
- 9月3日(火):製造業PMI(8月)、ISM製造業景気指数(8月)
- 9月4日(水):JOLTS求人件数(7月)、耐久財受注(7月)
- 9月5日(木):ISM非製造業景気指数(8月)
- 9月6日(金):雇用統計(8月)
雇用統計の内、特に失業率が重要指標となる。本日時点での市場予想は4.2%とやや改善を予想しているが、この数字を大幅に下回る場合はFRBの利下げ観測自体後退する可能性がある。その場合は円高シナリオも修正を迫られることになる。
ただし、米国家計の余力、米国PCEの低下傾向、賃金上昇の鈍化傾向を考えると円高シナリオ修正の可能性はあまり高くないだろう。
【ドル円下落幅と期間】
過去の円高トレンドを参考にすると、
- ドル円下落幅:20%以上
- 期間:1〜3年程度
がざっくりとした目安である。
今年7月の161円からトレンド開始とした場合、1年ないしそれ以上の期間で130円前後まで下落することが予想できる。現在146円台なので、まだ10%以上の下落幅を残していることになる。
【まとめ】
テクニカル、ファンダメンタルの双方向から長期円高シナリオが形成されつつあることが示唆されている。
メインシナリオは円高と考えて良さそうだが、その場合でも一方的に為替が動くわけでないので注意が必要だ。各種経済指標、各国の政治状況や政策で一時的に円安に動くこと事が度々ある。臨機応変な対応と大局観が重要になってくるだろう。
【関連記事】